江上剛さんえがみ・ごう/1954年生まれ。作家。早稲田大学政治経済学部卒。旧第一勧銀広報部在籍中に、総会屋利益供与事件の混乱収拾に尽力する。主な作品に『非情銀行』『小説金融庁』など(撮影/編集部・石臥薫子)
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江上剛さん
えがみ・ごう/1954年生まれ。作家。早稲田大学政治経済学部卒。旧第一勧銀広報部在籍中に、総会屋利益供与事件の混乱収拾に尽力する。主な作品に『非情銀行』『小説金融庁』など(撮影/編集部・石臥薫子)
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 社員の人生や、時には会社そのものを大きく動かしかねない社内派閥。間近にそれを見てきたという、作家で『会社という病』などの著書がある江上剛さんに、派閥の及ぼす影響について聞いた。

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 我々の祖先のホモ・サピンスが、ネアンデルタール人など他の人類を滅ぼし、生き残ることができたのはなぜだかご存じですか。専門家によると「群れで戦えたから」だそうです。人間にとって派閥を作るのは本能なのでしょう。しかし、それが行き過ぎると、とんでもない事態を引き起こします。私は、繰り返される企業の不祥事の裏には、激しい派閥争いと、その果ての硬直した人事があると思います。東芝の不正会計事件などその典型でしょう。

 メーカーではパソコン畑とか、インフラ畑など「畑」と称される部門ごとにボスがいて、主流派争いをしていることが多い。銀行などで目立つのは「学閥」です。私は古巣の第一勧業銀行(現みずほ銀行)で人事部にいたことがありますが、東京大学卒の人が後輩を「東大卒は潜在能力が高いから」というだけの理由で昇進させようとするのを見て愕然としました。仕事は潜在能力じゃなくて、顕在能力=実績で勝負するものじゃないのかよと。

 そうした派閥や学閥による人事を繰り返していると、組織は腐ります。第一勧銀では、行員は合併前の日本勧業銀行出身のK、第一銀行出身のDに分断されていました。そしてK側は、D側に闇の勢力との危険な案件があると知っていても「弾けたら、Dが窮地に陥るのだから」と見て見ぬふりをしていた。それが結局、総会屋への利益供与事件として火を噴きました。東芝だって、部門間の激しい競争の中で社長が「チャレンジ」と称して非現実的な目標達成を強要したことが、不正会計につながったのでしょう。

 最も厄介なのは、実際の人事を、今の社長ではなく、3代前の社長などが「相談役」や「顧問」として全部握っているようなケースです。人間誰しも、自分を抜擢してくれた元上司には逆らえませんから、ガバナンス不能に陥ります。いわゆる「中興の祖」が居座っている会社も同じです。

 第一勧銀の総会屋事件では、上司の指示に従ったばかりに何人もの行員が逮捕されました。「これがサラリーマンの人生、しょうがないよ」と言いながら捕まっていった人を泣きながら見送ったこともあります。渦中で自殺した元頭取も、人柄としてはとても素晴らしい人でした。彼らが、懲役刑を受けたり、自殺しなければならなくなったりする組織や人事とは一体何なのか。それが、私の小説の大きなテーマでもあります。(アエラ編集部)

AERA 2016年3月21日号より抜粋

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