「営業部は花形の部署。男の新入社員が来るものだと信じていた。女の子が来ることには反対だったから、そのつもりで」

 何を食べ、何を話したか、渡辺さんは覚えていない。

「営業本部長の気まぐれ人事でしょ、と思うと、なんて勝手なという気持ちもありました。でも、総合職女性が珍しいからとほかの部署から見学に来られる環境で、だれかに不満をぶつけられる状況ではありませんでした」(渡辺さん)

 結果的には、営業の仕事を通し、「会社の花形の仕事」を知ることができてよかった。とはいえ、その後、営業の経験が十分に生かされているとはいえないのが現実だ。

 渡辺さんは、37歳の時に関連会社の広報部へ出向。そこで7年間働き、今度は別の関連研究機関の広報部へ出向になった。居心地は良かったが「本社の広報部の人員が足らない。来たがる人がいない。戻ってきてくれ」という再三の要請を受け、本社広報部へ異動になった。そのまま3年が経つ。入社して約30年、数々の人事を見るにつけ、「人事は偉い人の一言、あるいは気まぐれで決まる」という印象はますます強くなっている。「人事に翻弄されるというより、不景気な時代だからしょうがないよね」という諦めモードだ。(ライター・羽根田真智)

AERA 2016年3月21日号より抜粋

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