カフェクレールにて
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 スコット・フィッツジェラルドの著書『The Great Gatsby』、アメリカ人が愛してやまない名作で、既にご存知の方も多い作品かと思います。

 ご存知なかった方も、ティファニーが手掛けたという贅沢なジュエリーや、レオナルド・ディカプリオ主演を始めとしたゴージャスな出演陣、その豪華さを凝縮したコマーシャルが記憶に新しいと思います。

 とにかく人気の高い作品で、過去に何度となく舞台で演じられ、日本では宝塚歌劇団によって演じられていて、前述の「アメリカ人が愛してやまない」の表現を越えて、世界中がギャツビーに夢を見てきました。

 私は最初に本を読みましたが、それはやはり私に夢を見させて、つかみのゴージャスさやミステリアスさから、興奮覚めぬうちに現実とは何か、富とは何か、果ては幸せとは、人生とは何なのかなど、図らずともどこか演説的で堅くなりがちな、大抵は入りにくい課題を高揚のうちに描いてくれることで、フィッツジェラルドの説きたかったそれらがスッと入ってくる作品でした。

 映画化も何回かされていて、私は今回2013年公開の「華麗なるギャツビー」しか観たことがありませんが、映像のゴージャスさや本当に見事な装飾品、役者さん達が素敵なの。それからギャツビーの豪邸がある(劇中では成金高級住宅街と表現されている)土地と川を挟んだだけの距離なのに、決して肩を並べることのできない本当のアメリカ上流階級の住む住宅街。作中で「緑の光」と表現されている、ギャツビー意中の女性が住む豪邸の屋外常夜灯の光と、自らとの距離感を表す描き方は圧巻でした。

 ですがどこか、本から読み取れた、フィッツジェラルドが自分の人生を派手な物語にした事で感じた虚しさや、巨万の富の後ろ姿、雑踏・豪華・欲望・力といったものを目の前にいつも付きまとう孤独、皮肉じみた悲哀などが今ひとつ描かれていなかったように感じたのが少し残念でした。

 それから、音楽が何曲か最近のヒット曲の焼き直しだったのが少し気になったかな、と。

 その中の一曲がエイミー・ワインハウスの曲で、私がエイミーの熱狂的ファンだから気になるだけかもしれませんが…

 あ、でも起用曲が《Back to Black》だったので、歌の題名にもなっている歌詞中の(全体を読み解くと悲恋歌ですが、あくまで一部だと)
「Back to Black→ 真っ暗闇に戻ってく」
という節が繰り返されるのが物語を暗喩していて良い気もしてきました。ゴニョゴニョ…

…等々ありましたが、とても見応えのある作品でした。

 と、映画はこんな感想でした。

 あらすじをさらりと書いてしまうのは乱暴な気がするのでやめときますね。皆さん是非ご自身で読むなり観るなりしてみて下さいね。オススメです。

 では映画は少し離れて、華麗なるギャツビーから見る20'sに思いを馳せてみます。

 作者のスコット・フィッツジェラルドが言った言葉の中にはキャッチーで万人を躍らせるワードは幾多もありましたが、それらの最高は「ジャズ・エイジ」という言葉でしょう。

 フィッツジェラルドが「ジャズ・エイジ」と名付けた1920年代のアメリカと言えば、第一次世界大戦の特需景気に沸き、世界の経済がニューヨーク、ウォール街に移りました。

 空前の好景気なのは頷けますが、フィッツジェラルドはなぜそれを「ジャズ・エイジ」と呼んだのでしょう。

 最も謎なのは、1920年代にはジャズはまだ確立されていない事です。

 割と最近の事なのに諸説在りすぎて、これだという出典がないのが、流れの中で若者が作り上げたリアルな流行だと感じることができる良い所ですが、あくまで師匠のジェームス・ムーディー師や諸先輩から聞いた話しだと、jazzという言葉はニューオリンズの黒人文化の中で産まれていて、ブルースから発展した音楽。ジャズの元々の語源はセックスを指すスラングだったとか女性器を指すスラングだったとか言われています。

 どちらにしても割と最低なシモネタですね。

 そのすぐ後にはジャズと言えばイケてるものの全般を指したといいます。

 今の日本でいう「マジヤバい!ハンパない!」みたいな事でしょうか。まあでも「ヤバいハンパない」がのちに音楽ジャンルになるとは思えないんですが、口語としてはこんな所な気がしています。

 しかし、元はシモネタ・スラングの「ジャズ」が如何にしてこれまでのジャズ音楽文化の大成に繋がったかの正解は解りませんが、いつの時代の若者も、ちょっと悪そうなことが大好きで、そう言ったワードを口走る事が最高にイケてる!なんてなったら、あとは若い力が集まるだけで文化となるのではないかと思います。

 なので、「ジャズ・エイジ」とは1920年代の狂騒を表す言葉で、元は音楽のジャズとは関係のないものと言えます。

 だがしかし!1924年には、フィッツジェラルドがセンスで発した「ジャズ・エイジ」という言葉をジョージ・ガーシュウィンが音楽にしてしまいます。

 ジャズミュージシャンにも愛演される《ラプソディ・イン・ブルー》がこの年に初演されます。

 個人的には、《ラプソディ~》を聴いて「これはジャズですか。」と聞かれたら「う~ん、クラッシックかな…わかんないけど。」と答えるとは思いますが、ブルーノートを多用したクラッシックにはない節回しは、後のジャズへと繋がった大きな出来事だと言えましょう。

 フィッツジェラルドのセンスにも脱帽ですが、「なんかわかんないけどイケてる!」を、ものの数年で形にしたガーシュウィンもハンパないですね。

 だって、いわゆる「ジャズっぽい」と認識できるスウィング・スタイルが始まるのはここから10年前後あとのことなのですから、この先取り感はマジヤバいわけです。

 そののち、40年代に流行る「Be-Bop」,60年代には「Funk」,70、80年代には「Hip Hop」それからユーロ、テクノ、アンビエント、トランス、などなどおそらく元々はフワフワとカッコいいという意味の言葉が音楽ジャンルになり、若者が狂喜してゆきます。

 これらは英語のとても良い所だと思っています。

 和訳の仕様がないから、という意味ですが、他にも個人的に英語の良い所だと思う単語は、thrill、moody、mystery等々です。和訳すると、なんか違う感が否めない単語に英語の素晴らしさを覚えるようになって久しいですが、音楽ジャンルの呼び名こそ英語の一番粋な部分な気がしています。

 話がそれましたが、20年代には女性の立場がより自由になったことで、彼女たちのスカート丈もグンと短くなり、コルセットでギュウギュウだった服装は軽くなり、激しいダンスに適した形へと変化していきました。それをFlapperと呼びました。

 もっと詳しく見てみると、世界大百科辞典第2版によれば、

フラッパー【flapper】
 元来〈まだ十分に飛べないひな鳥〉〈まだ社交界に出ていない少女〉の意味もあるが、第一次世界大戦後にアメリカに出現した若い女性のタイプを指す。旧来の〈お上品な伝統〉に史上初めて挑戦した、自由で解放された女性で、いわゆるジャズ・エージの花形であった。彼女らを特徴づけるのは、諸事に対するシニカルな態度、セックスへの積極的関心、そして飲酒・喫煙を含む風俗や、大胆なファッションの誇示などであった。とくに画期的なのはそのファッションで、裾が膝までしか届かないストレート・ドレス、ショート・ヘア、ペティコート追放、大戦後に初めて現れた化粧品(真っ赤な口紅、アイシャドー)などがトレード・マークであった。

 と、あります。

 ジャズ・エイジに限らず、景気の良い時代の、特に女性のはじけ方というのはいつもすごいものがありますね。

 それにしても、私もショートボブやミニスカートや真っ赤な口紅が大好きですが、ジャズ・エイジあっての産物なんですね。いやはや、ありがたい。

 それにフラッパーの代表格がフィッツジェラルドの妻、ゼルダだと言う呼び声も高いのだから凄い説得力。なんというイケイケ夫婦。

 『The Great Gatsby』の劇中後半から、ギャツビーに不利なことが起き初め、「緑の光」に届かぬままやがて破滅へと向かい、この物語は終わっています。

 この流れが、1929年の株価大暴落、暗黒の木曜日を暗喩するかのごとく、実際の歴史上でも狂騒のジャズ・エイジは終わりを告げます。

 いつからか私は、自分一個体だけの世界と、いわゆる世間との境界がよくわからずにいましたが、実は夢だと思っている世界がみんなのいる日常で、現実というのが自分一人だけの宇宙なんではないか、との思いが『The Great Gatsby』を読んだ時に合点いった気がしました。

 私は有り余るおかねを持ったことも、ギャツビーのような野心や行動力もありませんが、夢の世界をより楽しくするには、もうやるしかないのだな、と理解しました。

 より良い夢の中に居れば、いつかそれが死という形で醒めた時、本当の現実が怖いものではなくなるのだから、と。

 また、フィッツジェラルドの文章は、どこか私たちジャズ・ミュージシャンのするフレージングのようなリズムのある文章で、ジャズのアドリブ・ソロというのは、いつでも一度きりの無常であり、彼の人生も、誰の人生もまた、二度と同じ時は歩めないという事が、静かにシンクロしたように思いました。

 二度と同じものは作ることができない。

 ジャズが産まれるずっと前に書かれた『The Great Gatsby』を通して、「無常の音楽ジャズ」をまた一つ味わう事ができました。

Flapperについて (wikipediaへリンクします)

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矢野沙織 Live Schedule

7/1 大阪ロイヤルホース
7/4 京都ラグ
7/5.6 名古屋スターアイズ
7/11 目黒ブルースアレイ
8/10 那覇Paker's Mood Jazz Club

詳細はこちらより
http://www.yanosaori.com/live/
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