
世間で「英語使い」と言われる人たちも、それぞれ「壁」にぶち当たる経験をしていた。一体どんな方法で乗り越えてきたのだろうか。NHKキャスターの場合はこうだった。
1999年、NHKの番組「クローズアップ現代」の収録で訪れた日産自動車本社の一室で、キャスターの国谷裕子さん(59)は当時COOだったカルロス・ゴーン氏と向き合っていた。
深刻な経営危機に陥っていた日産を傘下に収めた仏ルノーが送り込んできたゴーン氏。経営再建のために、工場閉鎖や人員削減を推し進めていたころだ。
「社員とのコミュニケーションは大変ではないでしょうか」という質問をしたときの答えが、いまも心に残っている。
ゴーン氏は言った。
「あいまいな質問にはあいまいな返事しか返ってきません。質問を具体的にすると、具体的な答えが返ってくるんです」
幹部や社員とは、率直な話し合いを心がけている、と。外国人幹部ならではの苦労話を引き出すつもりだったが、インタビューの本質を教えられた思いだった。
「日本語だと、オブラートに包んで尋ねるほうが礼儀正しいとされています。でも、英語では日本語と同じように聞いてもいい答えは返ってこない。改めて、具体的な質問を意識するようになりました」
幼い頃から米ニューヨークやサンフランシスコで暮らし、名門ブラウン大学に通った国谷さん。クリントン元米大統領や国際通貨基金のラガルド専務理事など、海外の要人とのインタビューを颯爽とこなす姿を見ている読者も多いだろう。
彼女の英語力は、いくつもの壁を乗り越えて磨き続けてきた結果の産物だ。