アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回はヤマハの「ニッポンの課長」を紹介する。
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■ヤマハ 楽器・音響営業本部 鍵盤楽器営業課 課長 大澤寛子(45)
国内製のピアノのほとんどが作られる静岡県西部。その一角、畑に囲まれたヤマハ掛川工場は、同社製のグランドピアノを世界中に出荷する拠点だ。
弦や鍵盤など、約8千点の部品を精巧に組み合わせる加減で音色が変わるため、製造には高度な技術がいる。一日に30台ほど作るのが精いっぱいだ。一方で、一台100万円以上もするがゆえに、広告を打てば売れるといった単純さはなく、需要と供給のバランスを取ることは難しい。
大澤寛子は、国内や海外の経済、音楽環境など、さまざまな条件を検討しながら、製造台数を調整し、販売会社を支援する業務を担う。市場が拡大している中国や東南アジアに注目するほか、高価格帯のプロ向け商品が人気の欧州にも目を配る。
「売り上げ目標を達成することも大切ですが、それ以上に“いいものを作ってお客様のもとへ届ける”というリレーがうまくつながっていくことにやりがいを感じています」
東京都内の短大を卒業後、1991年、故郷である静岡県浜松市に本社を構える同社に入った。当時、営業職は男性ばかりだったが、今や部下20人のうち半数ほどが女性。自らが課長になることも想像していなかった。
「振り返ってみると、目の前にある仕事に対して、任せてもらったからには期待に応えたい、という思いで一つ一つ取り組む、その繰り返しだったように思います。上司に恵まれていたので、今度は私が部下のために自由にがんばれる環境をつくりたいですね」
控えめに語るが、実はかなりの努力家だ。課長職になってから、アコースティックだけでなく電子ピアノも担当することになると、周囲が驚くほどの早さで、商品の知識を蓄えた。
息抜きはテニス。
「遠くにあるボールほど拾いたくなるんですよ。仕事も同じかな。誰も行かないところを率先して拾いに行きたい」
(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・安楽由紀子)
※AERA 2015年9月28日号