「派遣法ができてから女性の雇用格差が広がった。パートや派遣の大部分を女性が占め、形を変えた性差別ができてしまった。今回の派遣法改正で一段と格差は広がるでしょう」
厚労省「平成26年就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況」でも、企業側が「正社員以外の労働者を活用する理由」のトップは、「賃金の節約のため」だ。女性の賃金(月給)を見ると、正社員では「20万~30万円未満」(41.5%)に山があるが、非正社員だと「10万円未満」(45.6%)、「10万~20万円未満」(43.3%)と低水準になる。一方で、派遣で働く側の理由は「正社員として働ける会社がなかったから」(46%)だ。
マキさん(37)は、コンサルティング会社で正社員のシステムエンジニアだった。20代でプロジェクトリーダーを任された。毎日、終電まで働くなかで、33歳で結婚。35歳で妊娠した。切迫流産(流産一歩手前の状態)になり産婦人科医から絶対安静を言い渡され、上司に相談すると退職を促された。
「中途半端に出社されても困る。この業界で残業できないのは一人前といえない。しばらく出産と育児に専念したらどうか」
無事な出産を望み、やむなく退職勧奨に応じた。
産後半年ほどで再就職活動を始めたが、正社員の採用試験は全滅。派遣会社に登録しても、「お子さんが小さいと、お仕事の紹介が難しいかもしれません」と言われた。実際に「顔合わせ」(事前面接のことで禁止されている)にこぎつけても、残業ができないことで断られた。
こうした状況下、15年8月に女性活躍推進法が成立し、今年4月から施行される。同法では、労働者301人以上の企業に対して、(1)自社の女性の活躍状況の把握・課題分析、(2)行動計画の策定・届け出、(3)情報公表を行う──と義務づけている。300人以下の企業は努力義務となり、10年間の時限立法だ。非正社員でも1年以上の継続した雇用があれば労働者の定義に含まれる。企業は社員の女性採用比率や勤続年数の男女差、労働時間、管理職に占める女性比率などの項目を公表し、女性の活躍推進に向けた計画や数値目標をまとめる。
一見、女性の労働を後押ししそうな法制定だが、同じ年に非正規雇用を促すような派遣法改正が行われた点が30年前と酷似しており、同じ轍を踏みはしないだろうか。働く女性の約6割が非正規雇用という異常な水準は、労働市場でこの30年、女性活躍推進が言葉だけに終わってきたことを物語る。
※AERA 2016年1月18日号より抜粋