限りある地球資源の枯渇は、古くて新しい問題だ。あまり注目されなかった切り口で、挑む科学者がいる。
試験管の中で、たらこの一粒ほどの物質が揺れている。
「これです。この小さな粒がマウスの筋肉細胞ですよ」
インテグリカルチャー代表取締役の羽生雄毅さん(30)は誇らしげだ。
昨年着手した「Shojinmeat Project」は、牛の筋幹細胞をもとに培養を重ね、食用の牛肉をつくろうという計画である。
「小さな粒を、大量につくって練り固めると、赤身のミンチができあがる」
理論的にはそうだろうが、いったい何粒あれば1食分の肉になるのか……羽生さんも、食卓に届けるために二つの高いハードルがあることを認める。
「コストと味です。前者に関して言うと、200グラムのミンチをつくるためには、1千万円以上かかってしまうんです」
こんな値段でハンバーガーをつくっても採算性はない。それでも、将来の食糧危機に備えるため、人類が火星に進出したときのため、研究を始めた。
次は味だ。培養した細胞は筋肉そのもので、味は淡泊極まりない。コクを出すためには脂肪を、食感を出すためには筋繊維も培養し、ホンモノばりに再現しないといけない。
さらには、「試験管でつくった肉」に対する、感情面・倫理面から来る嫌悪もあるだろう。 とはいえ、未来の食糧事情が今と同じである保証はどこにもない。まず、かつて新興国と呼ばれた国の経済成長に伴って、食肉の需要は増え続けている。
※AERA 2016年1月11日号より抜粋