こじらせ系の登場人物たちに毅然と立ち向かうアリスは、私たちのヒーローだ。プリンセス願望を脱ぎ捨てて、さあ不思議の国へ(撮影/写真部・堀内慶太郎)
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こじらせ系の登場人物たちに毅然と立ち向かうアリスは、私たちのヒーローだ。プリンセス願望を脱ぎ捨てて、さあ不思議の国へ(撮影/写真部・堀内慶太郎)
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首を下げた懐中時計は細貝さんお気に入り。まるであの白ウサギのよう?(撮影/写真部・堀内慶太郎)
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首を下げた懐中時計は細貝さんお気に入り。まるであの白ウサギのよう?(撮影/写真部・堀内慶太郎)

『不思議の国のアリス』が刊行されて、今年で150年。シンデレラや白雪姫のような「王道」感はないが、むしろ、従来のプリンセス像を崩す、その姿が魅力だ。そんなアリスに、パワーをもらった女性もいる。

「授業を進めてください」

 高校2年生のとき、四面楚歌の職員室で、教師に向かい、はっきりと告げた。脳裏に浮かんでいたのは、世界で最も有名な7歳の少女「アリス」の姿だ。

 明治大学3年の細貝夕子さん(22)は、この“決闘”のことを今でも鮮明に覚えている。そこには、ルイス・キャロル原作の、世界中で愛される児童文学『不思議の国のアリス』との出会いがあった。

 運命の出会いは、高校1年生のとき。それまでアリスといえば、金髪・碧眼・ドレスというロリータチックなかわいさが独り歩きしたイメージがあり、なによエプロンドレスなんか着ちゃってさ、と思っていた。しかし、偏見を持つのは良くないと思い直し、初めて読んだ原作に、雷に打たれたような衝撃を受ける。

 最も感銘を受けたのは「首をはねよ!」が口癖で、誰かれ構わず気にくわないことがあるとすぐに処刑を命じる、超パワハラ体質の“ハートの女王”に、アリスがたった一人で立ち向かうシーンだ。タルトを盗んだ犯人を裁く裁判に巻き込まれたアリスは、評決を待たずに刑を宣告しようとする女王に向かって叫ぶのだ。

「ナンセンス!」

「わずか7歳の女の子が、最高権力者に対して臆せずにものを言うなんてすごいですよね。アリスの反骨精神が、たまらなくカッコイイと思いました」と細貝さん。

 アリスに出会ってから1年が過ぎた頃、細貝さんにも試練が訪れる。当時、国語を担当していた男性教師が、自分の自慢話ばかりするせいで、授業が大幅に遅れてしまったのだ。まわりのクラスメートは陰で文句を言っているだけで、面と向かって注意しようとはしない。そこで冒頭のシーンに至ったわけだ。突然の反撃に驚いた男性教師は、涙をためて鼻をすすりながら、こう言った。

「あなたと話していると、いらいらする」

 しかしその後、授業中の無駄話は徐々に減っていき、カリキュラムにも無事追いついた。細貝さんには、アリスとの出会いで大きく変わったことがある。

「アリスには最初から最後まで仲間はいません。過度なつながりを求める学校生活の中で、友達に合わせないといけないという強迫観念がなくなりましたね。たとえ一人でも、アリスのように、間違ったことにはノーと立ち向かおうって決めたんです」

AERA 2015年11月9日号より抜粋

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