アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は鹿島の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■鹿島 福島第一凍土遮水壁工事事務所 次長 亀井良至(50)
Jヴィレッジから東京電力福島第一原発へと続く国道6号。道沿いには、汚染土を詰めた袋が積まれている。路地と民家の入り口を塞ぐ「蛇腹ゲート」の数は、原発へ近づくほど増えていく。鹿島の亀井良至は、この道を毎日、往復している。
東日本大震災から4年が過ぎ、風化が懸念されているが、「火事でいうなら、まだ火は残っている」と気を引き締める。
1~4号機の原子炉建屋の地下には、一日に約300トンの地下水が山側から流れ込む。地下水は放射性物質を含んだ水などと混ざって、日々、新たな汚染水が生じる。だったら、地下水の流入を防げば、発生する汚染水を減らせるのではないか──そんな発想のもと、4月末から建屋の周囲約1500メートルに“氷の壁”を築く試みが始まった。地下鉄やトンネルの工事で使われる凍結工法を活用した「凍土遮水壁」だ。亀井はその設計や設備の運用を任されている。
1メートル間隔で、パイプを地下30メートルまで垂直に埋める。この凍結管に零下30度の冷却剤を循環させ、建屋の周りの地盤を凍らせる作戦だ。冷却剤は、1台で4階建て相当の冷凍倉庫を冷やせる能力を持つ冷凍機30台から、大人が入れるほどの太さのパイプ(写真)を通して送る。送りムラがあっては、強固な壁にはならないので、気を使う。
「世界でも経験のない規模。誰が責任を取るんだ、という重さもある」
まだ試験段階だが、汚染水の貯蔵タンクは増え続け、いまや80万トン分に上る。「もっと急がないと」との言葉に実感がこもる。
これから過酷な季節になる。手袋は3重、靴下は2重履き。被曝を防ぐ放射線遮蔽ベストは重さが5キロ以上もある。
「いまも一日7千人が現場で日夜奮闘していることを知ってほしいんです」
そう言い残し、作業へ戻っていった。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(編集部・鳴澤大)
※AERA 2015年6月22日号