waniwave 『ワニウエイブのCDは呪われた!』
waniwave 『ワニウエイブのCDは呪われた!』
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「なによ“ワニウエイブ”って?」「“CDを聴いたら呪われて死ね”だと!?」

「キミたち、いくら自由主義の国の音楽市場だからってモノには限度があるだろ!」

 そんな大人たちの苦言やザワメキが古色蒼然の山寺から聞こえてきそうだが…異様なまでの脱力感の中にチクッとしてドキッとさせられるものがそこにはある。いや、なかなかどうして素晴らしいネーミング・センスだと思うのだが。

 音楽家に限らず、男女問わず、いつの時代も型破りな若人たちは名前を付けるのが巧い。ことばの面構えをシレッと壊してサクッと立て直す。とはいえ、ただの“デカンショ”祭やオノマトペ大会ではない。前衛芸術のメソッドにも通ずるような解体・再構築作業の術に長けている。会社と自宅を往復しているだけの人生を送っているようなヒト、あるいはファッション雑誌受け売りの格好に安堵感を覚えるようなヒトにはちょっとやそっとじゃ理解できない(理解されてたまるか感:大さじ一杯?)、このシュール、そのパラノイア、あのカタストロフィ、キワキワでズルズル、からのまったりとしたカタルシス。信じられないぐらいハイレベルだ。

 「僕らのネガティブは生きているポジティブ~」と朗らかに謳いながら、ネット上に潜んでいたワニがいよいよ地上に姿を現したら、あなたどうする? と訊かれてもほぼポカーンだが、「CDを聴いていたら死んでしまうような、おもしろい世界を取り戻しにいこうよ」とやけに熱っぽく誘われれば話は別。少なくともぼくは、そのワニの口車に乗って、背中に乗って、後先考えずその世界を取り戻すツアーに参加するんだろうな。

 今回ご紹介する能弁者waniwave(ワニウエイブ)、ラッパーと呼ぶのが適当なのか、ポエトリー・リーダーと呼ぶのが正解なのか、とにかく耳ヲ貸スベキ口上スキルの持ち主。トラック・メイキングも自前でサクサクこなすということで、以前からmyspaceや、muzie、Bandcamp、SoundCloudといった無料音楽配信サイトなどに淡々と、そして大量に自作楽曲をアップロードしていたそうな。プロフィールに綴られた「都心またはインターネットを拠点に活動しているラッパー/トラックメイカー」という肩書きはフィクションでもブラフでも何でもなく、今やある種リアルな音楽の現場がインターネット上にあるということを改めて強く思い知らされた。

 そういえば何年か前、取材で会った元ビッグ・オーディオ・ダイナマイトのドン・レッツも確かこんなことを言っていた。「若い連中っていうのは、レッドカーペットもMTVも必要としていないんだ。そんなものには目もくれず、自分たちの新しいやり方でやっていきたいって、インターネットのような素晴らしい場を手にした。ネットでの表現は、パンク精神のひとつだと思えるぐらいだよ」と。うひゃあ、ホントにその通りになったよ、しかもものすごいスピードで。目を覚ませ同志たちよ、時代は確実に移り変わっているぞ。

 “すぐ感謝しちゃう”ヒップホップやレゲエ、“すぐ抱きしめちゃう”R&Bをはじめ、応援歌型クラブ歌謡がお茶の間でぐんぐんと票田を拡大する時節に、waniwaveはロックバンド出をルーツに、ヒップホップのようなダンス・ミュージックのような、だがしかしヒップホップでもダンス・ミュージックでもない、あたかもそれらのメタモルフォーゼ? いやむしろネオテニー? という感じでも殊更なく、これ完全なるミュータント臭を漂わせたボディ・ミュージックを、その突飛な口上スキルをもって都市のやちまたに垂れ流す。既存のことばの力学に逆らうかのようなリリックが、関係妄想のドラマよろしく虚空を清々しく駆け抜ける。玉虫色のシンセ、パッサパサの808ビーツ。各トラックに三々五々仕掛けられている“泣きのメロ”も実にいい。それにしても、「俺たちに明日はない!!!」は何故こんなに笑えて泣けるのだろうか。

 見た目ハト派の内実タカ派MCを次々と送り出す注目レーベル、LOW HIGH WHO?(ローハイフー?)からのリリースとなる、waniwave 初のフィジカル盤にして初の有料プロダクツ、『ワニウエイブのCDは呪われた!』。今じゃどのチャンネルひねっても無味乾燥の美辞麗句ソングばかり流れているんだし…どうせなら音楽には、呪われて死ぬぐらいのおもしろさがあってちょうどいいのかもしれない。[次回7/3(水)更新予定]