患者に協力してもらい、抗がん剤による肌質の変化のデータを集める(ふだんは専用の測定室で行う)。日本医療研究開発機構の革新的がん医療実用化研究事業(委託費)を利用した研究だ。「解析して、より効果的な対策につなげるなど、多くの患者さんにフィードバックしたい」と語るセンター長の野澤桂子さん(写真中央)(撮影/今村拓馬)
患者に協力してもらい、抗がん剤による肌質の変化のデータを集める(ふだんは専用の測定室で行う)。日本医療研究開発機構の革新的がん医療実用化研究事業(委託費)を利用した研究だ。「解析して、より効果的な対策につなげるなど、多くの患者さんにフィードバックしたい」と語るセンター長の野澤桂子さん(写真中央)(撮影/今村拓馬)

 がんからの生還を果たせても、薬の副作用による抜け毛や爪の変形などに悩む患者は多い。「働きながら治す」ためには、外見ケアに取り組む医療機関がもっと増える必要がある。

「来週から通院で抗がん剤治療をしましょう。ただ、抗がん剤を始めると髪やまゆ毛、まつ毛が抜けますよ」

 国立がん研究センター中央病院乳がんの治療を受けている高田美穂さん(35)=仮名=は、主治医からそう告げられて泣きそうになった。

 抗がん剤治療が避けられないことはわかっていたが、髪が抜けてしまっては外出もままならない。退院後の職場復帰を心の支えに、乳房の切除などのつらい治療を乗り越えてきたのに。ウィッグをつけたって、ばれるに決まっている。会社のみんなにどう言えばいいのだろう──。

 新たな不安を抱えた高田さんのために、主治医は院内にあるアピアランス支援センターの野澤桂子センター長に連絡してくれた。

 アピアランスとは英語で「外見」のこと。手術や化学療法、放射線治療などのがん治療は、脱毛、顔や体の欠損、爪の変形、皮膚の変色、湿疹、傷痕といったさまざまな外見の変化をもたらすことがあり、患者に大きなストレスを与えている。

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