「私は製薬会社の社員だったので、エビデンスが不確かな治療を受ける気はなく、先進医療なら大丈夫だと思えたのです。陽子線治療の技術料は約280万円。それ以外は健康保険が適用されたので、自己負担の総額は300万円以内に収まりました。車を1台買ったことにしようと割り切っています」(河野さん)


 
 15年8月1日現在、先進医療に登録されている医療技術は、107種類。なかでも圧倒的な人気を誇るのが、陽子線治療と重粒子線治療だ。

 静岡県立静岡がんセンターは03年、全国で4番目に陽子線治療を始めた。ここ数年は毎年200人前後を治療しているが、患者自身が「先進医療の陽子線治療を受けたい」と希望して来ても、ほかに手術や通常の放射線治療といった選択肢があるケースも多い。

「先進医療は厳格に運営され、がん種や病状が対象外であれば受けられません。主治医の紹介状も必要です。さらに陽子線治療科だけでなく、前立腺がんなら泌尿器科、肺がんなら呼吸器外科などの医師を交えて検討した結果、他の治療にしたほうがいいとなる場合もあります」

 だが、患者が寄せる期待は大きい。都内の総合病院で消化器外科部長を務める医師は言う。

「先日、胃がんを告知した60代の男性が『医療保険に先進医療特約を付けているのだが、どんな最先端の治療が受けられるのか。iPS細胞とかですか』と聞いてきました。そんな治療はできないし、通常の手術が最も適していると答えました」

 すると、その男性は自分で調べ、「重粒子線か陽子線の治療を受けたい」と言い出した。胃がんはいずれも先進医療の対象外と知ると、「せっかく300万円がタダになる特約があるのに、使えないのか……」とがっかりしていたそうだ。

「先進医療という名前は知られるようになりましたが、内容を誤解している患者さんもいます。利用したい気持ちが先走って、『自分のがんの状態にベストマッチな治療を受ける』という考えが抜け落ちてしまうケースが最近、少なくありません」

AERA 2015年9月7日号より抜粋

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