『ケリー・アット・ミッドナイト』(Vee Jay)ウィントン・ケリー(p)アーカイブの[ジャズ名盤の聴き方]もどうぞ。以下同じ。
『ケリー・アット・ミッドナイト』(Vee Jay)
ウィントン・ケリー(p)
アーカイブの[ジャズ名盤の聴き方]もどうぞ。以下同じ。
『ケニー・ドリュー・トリオ』(Riverside)ケニー・ドリュー(p)
『ケニー・ドリュー・トリオ』(Riverside)
ケニー・ドリュー(p)
『ピクチャー・オブ・ヒース』(XANADU)ジミー・ヒース(ts)、バリー・ハリス(p)
『ピクチャー・オブ・ヒース』(XANADU)
ジミー・ヒース(ts)、バリー・ハリス(p)
『ソニー・クラーク・トリオ』+6(Time)ソニー・クラーク(p)
『ソニー・クラーク・トリオ』+6(Time)
ソニー・クラーク(p)

 今回もしつこく(笑)ブラインドです。素材は一番ブラインドが難しいとされるピアノです。ピアノはもともと調律されており、サックスなどに比べ音色の変化をつけにくい楽器なので、微妙なタッチの違い、フレージングのクセを聴き取るしかない。それでも、ビル・エヴァンスとセロニアス・モンクの演奏は誰が聴いても違いがわかりますよね。ですから彼らは「訓練の素材」としては不向きです。

 あ、ちょっと回り道をしましょう。エヴァンス、モンク、それにバド・パウエルやらセシル・テイラーなど、「誰でも聴き分けられられちゃう」ピアニストは、要するに極めてオリジナルな自分のスタイルを持っている。つまり「超一流ミュージシャン」ってことなのです。これは他の楽器にも言えて、マイルス、コルトレーンといった超大物は誰でもわかる。

 彼らが個性的であるのは当然ですが、ある意味では「個性の違いが聴き所」などというレベルを超えたアートの境地に達しているので、彼らの「凄み」が実感できたとしても、その体験は必ずしも「フツーのジャズの面白さ」を掴むことと同じではないのです。一例を挙げれば、累積販売枚数が数百万枚を超えるといわれるマイルスの『カインド・オブ・ブルー』(Columbia)の購入者の大半は、『音楽ファン』ではあるかもしれませんが、全員が『ジャズファン』とは思えません。だってもしそうだったら、ジャズはもっとメジャーな音楽になっているんじゃないでしょうか(笑)。

 それはさておき、今回はブラインドの最難関ピアノ・ジャズのそのまた一番判別が難しいパウエル派ピアニストの聴き分け法です。「パウエル派」というのはバド・パウエルの影響を受けたピアニストたちのことで、当然スタイルが似ています。ですから、オスカー・ピーターソンとハービー・ハンコックの違い、というような大きなスタイル上の違いが無いのです。さてどうするか。

 もちろん、代表的パウエル派、ウィントン・ケリーやらケニー・ドリューは、特徴的な「手持ちフレーズ」を持っているので、それさえ覚えてしまえばわりあい容易に判別できます。しかし渋めのパウエル派、バリー・ハリス(大好きです)や、マニア好みのソニー・クラークとなると、ことはそうカンタンではありません。

 そこでオススメするのが「音楽の表情」を聴きとるという高等戦術です。たとえば、ケリーのピアノからキラキラした輝き、ドリューの弾んだリズム感、ハリスの洒脱なセンス、クラークの重いタッチなど、それぞれのジャズマン特有の音楽の表情、肌触りをしっかりと聴きとるのです。これが出来るようになると、必ずしも特徴的なフレーズが出てこなくても、誰の演奏か聴き分けられるようになる。そしてその時あなたが聴きとった「音楽の表情・肌触り」こそが、ジャズマンたちが演奏を通じて表現しようと思っているものなのです。[次回7/16(火)更新予定]