米国に基地問題と女性の人権問題を訴えてきた沖縄社会大衆党の参議院議員、糸数(いとかず)慶子さんも、翁長訪米に合わせてワシントンに滞在するが、状況の厳しさは感じている。昨年6月に沖縄を訪問したキャロライン・ケネディ駐日米大使とのやり取りを振り返って、こう話す。
「何度も面会を依頼しても会えなかったので、このときは半ば強引に近づいて名刺を渡しました。ところが、基地の話を始めたとたん、『大変お美しいですね』と関係ない話ではぐらかされてしまいました」
会いたいと頼んでも、大使はイエスともノーとも言わず、笑顔で車に乗り込んだという。
名護市辺野古の海兵隊キャンプ・シュワブ周辺の空気は、すさんでいた。反対グループによる24時間態勢の座り込みは、300日を数える。道ゆく車に反対への賛同を呼びかける人々。そこに沖縄に本拠を置く右翼団体の街宣車が近づいた。付近に待機していた私服警官たちが飛び出してブロックし、Uターンさせた。「反日行動はやめろ」「翁長は売国奴」。拡声機の声が響く。
名護市在住の芥川賞作家、目取真(めどるま)俊さんは連日、カヌーで辺野古沿岸の工事水域にこぎ出し、抗議行動に参加している。目取真さんによると、海上保安庁の対応は厳しくなる一方で、
「ライフジャケットの襟をつかんで海に頭を突っ込んだり、カヌーをわざと転覆させたりと、荒っぽい取り締まりが続いて、けが人も増えています」
沖縄側は「まずは中断して、話し合いを」と求める。しかし、話し合いは「工事中止のため」だと分かっている安倍政権は、夏までに本体着工を行うとの考えを崩していない。
●本土と沖縄の分厚い「心」の壁
沖縄戦が事実上終結した「慰霊の日」の6月23日や、埋め立て承認の取り消しを視野に入れた第三者検証委員会の最終報告が出る7月に向けて、今後も沖縄はボルテージを上げていくだろう。着工へ突き進んで、沖縄をさらに過激な道へ追い込んでいいのか、と危惧する人は、永田町や霞が関でも少なくはない。
翁長氏は、20日の日本記者クラブでの会見冒頭、琉球語と日本語の両方を使い、虐げられた沖縄の歴史を読み上げた。この日、おそらく翁長知事にとって、最も気持ちを込めたメッセージであったに違いなかった。
会見後、在京テレビ局の記者が、撮影スタッフと交わす会話が聞こえた。
「あの最初の変なよくわからない現地語は、知事の趣味の部分だから、全カットな」
翁長氏が突破すべき壁は、いくつもある。だが、そのなかでも最も難しいのは、本土と沖縄との間に横たわる、分厚い「心」の壁に違いない。
※AERA 2015年6月1日号