アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は三越伊勢丹の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■三越伊勢丹 紳士・スポーツ統括部 紳士靴 バイヤー 中村良枝(43)
東京・新宿に、「世界屈指」の紳士靴売り場がある。服飾好きなら知らぬ者はいないだろう。伊勢丹新宿店メンズ館の地下1階には、国内外の180ブランドから約2千足が並ぶ。これだけそろうショップは、本場の英国にさえ存在しない。そんな売り場のバイヤーを務めるのが、中村良枝だ。
靴の買いつけに奔走するかたわら、売り場づくりの全権を担い、職場に一体感をつくりあげる。紳士靴売り場のスタッフは、総勢約100人。そのうち2割は三越伊勢丹の社員だが、ほかは取引先からのパートナースタッフだ。自社製品に関する知識は、販売における強みになる。もっとも、彼らが売るのは自社製品だけではない。
「みんな同じ売り場に立つのですから、ほかのブランドの商品も売ってもらいます。求められるのは売り場としてのチームプレー。横断的な知識をつけるため、頻繁に勉強会も開きます。靴の製法やブランドの歴史、靴の細部に込められた意味……。知らなきゃ売れませんから」
かくしてできあがるのが、1人あたり年間売り上げが、トップでは数千万円というプロ集団だ。
短大を卒業して1992年、伊勢丹に入社した。この間、ほとんどを紳士靴の担当できた。シューフィッターの資格をとり、何万という足を見るうちに、測らなくてもサイズがわかるようになった。そんな中村の見立てを希望する紳士は少なくない。「中村待ち」ができるほどだ。
景気が厳しいときでも、消費税率が上がっても、10万円前後の高級靴が売れる。なぜなのか。
「本物志向。歴史の風雨に耐えて生き残ってきた名品は売れるんです」
いい靴は、手入れをすれば10年、あるいはそれ以上、人生の相棒であり続ける。中村が売るのは、そういうものなのだ。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(編集部・岡本俊浩)
※AERA 2015年2月9日号