アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回はメルシャンの「ニッポンの課長」を紹介する。
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■メルシャン チーフワインメーカー 生駒元(45)
日本はワイン用のブドウづくりに適さない──かつてそんな見方が支配的だったこともあるが、いまは違う。「シャトー・メルシャン」(山梨県甲州市)のワインは、国際コンクールや海外専門誌で最高クラスの評価を得て、すっかりワールドクラス。であるからこそ、メルシャンのチーフワインメーカー、生駒元は感じている。
「日本のワインには厳しい目線が注がれている。ハンパなものはつくれない」
山梨県の勝沼を拠点に、自社の管理畑や契約栽培地でのブドウづくりから醸造まで、「純日本産」にこだわったワインづくりに明け暮れる。寒暖差のある高地でつくれば、いいブドウができる。果実を育む軟水も、生かせば他にはない、やわらかい口当たりを生むことができる。
生駒は日々、樽で寝かせたワインをチェックして回る。なかには数年寝かせたワインもある。気の長い仕事だ。
京都大学農学部の食品工学科を卒業し、入社した。研修のために駐在した米国の名門ワイナリーで、「世の中には、こんなにまでおいしい液体があるのか」と衝撃を受け、夢中で学んだ。
最も苦労したのは、ブドウをいつ摘みとるか。いくら果実としてよく育っても、ワイン原料としての収穫のタイミングを誤れば、ポテンシャルは大きく減退する。だから、果実味の「香り」が最大限に高まったとき、逃さず摘み取る。ワインの出来、不出来の多くを握るのは、香り。日本のワインを飛躍させたのも、この香りだった。
「経験や勘で判断していた香りをデータ化できないか。日本固有の品種『甲州』を材料に、ボルドー大学の富永敬俊博士(故人)と科学的な分析をかけたんです」
日本のワインづくりは欧州に比べたら歴史は浅いが、その時間を科学で埋めたのだった。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(編集部・岡本俊浩)
※AERA 2014年12月29日-1月5日号