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 税制改正で相続税が大幅に増税されてから、もうすぐ3カ月。節税のための生前贈与に関心を示す人も少なくない。しかしきちんと話し合っておかないと、思わぬ「しこり」を残すことも。

 相続税の節税は「課税資産」をいかに減らせるかがカギだ。預貯金は評価額が100%なので、余剰な現金は減らしておくに限る。そこで有効なのが「生前贈与」。生きているうちに祖父母から子や孫に財産を贈与して「課税資産」を減らしておくのだ。今年度の税制改正では、高齢者から若者世代への「資産移転」を目的に、非課税枠が拡充、延長された分野もある。

 2019年3月末までの延長が決まったのは、「教育資金の一括贈与」。これは、孫(あるいは子)に教育資金を贈与した場合、1人あたり1500万円までは非課税となる制度だ。

 手続きは各金融機関によって異なるが、祖父母が専用口座をつくって、教育目的に使ったことを証明する領収書と引き換えにお金を引き出すのが一般的だ。

 1500万円もの大金をいっぺんに贈与できるので節税効果は高いが、注意点もある。ファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんが話す。

「いったん口座にお金を入れたあと、祖父母から解約はできません。『銀行に勧められるまま預けてしまったけど、額が多すぎたかもしれない』と後悔している人もいます。晩年には、高齢者施設の入居費などで現金が必要になることも多い。老後の資金計画を立てたうえで、いくらまでなら援助できるのかを吟味するべきです」

 限度額の1500万円をポンと渡したがゆえに、“しこり”が残った家族もいる。例えば、相続専門の税理士法人「レガシィ」代表税理士の天野隆さんにが相談を受けた男性医師Aさんのケース(70代)。

 Aさんの長男は夫婦ともに医師という「医者一族」で、長男の妻の父も医師だ。この非課税制度を知ったAさんは、「おじいちゃん」として教育資金を援助して、かわいい孫の笑顔を見るのを楽しみにしていた。ところが、いざ援助しようと思ったら、嫁の実家がすでに限度額の1500万円を渡していたことが発覚したという。

「なぜ一声かけてくれなかったのかと嘆いていました。『孫孝行』をしたいという気持ちは一緒。両方の実家がともに孫を喜ばせてあげられるように、預貯金に余裕があっても、預入金は750万円までに抑えておくのがいいでしょう」(天野さん)

AERA 2015年3月30日号より抜粋