不登校児がゼロの公立学校が注目を集めている。ドキュメンタリー映画にもなった同学校の取り組みを追った。
スクリーンの中で、一人の女性が涙を流している。大阪市立大空小学校の木村泰子校長だ。映画「みんなの学校」の一シーン。その涙のわけは何なのか。
同校は不登校ゼロの公立小学校として知られる。映画は、その大空小の取り組みを追ったドキュメンタリーで、いま俄然注目を集めている。
不登校ゼロの秘密を解くカギのひとつは、地域の人たちを巻き込んでの活動「パトレンジャー」。2006年に同校が開校したとき木村校長が出したアイデアだ。学校に行き渋る子がいれば、ボランティアの住民たちが、通学路で子どもを見守り、時には彼らの話に耳を傾ける。
映画には、学校に行き渋る6年生の男児が声をかけてくれたボランティアのおじさんを思わず蹴ってしまうという話が登場する。校長に諭されてその子が、おじさんに謝りにいく。
「蹴っちゃってごめんなさい」
仲直りの握手のときに、児童がそっと渡したのは、修学旅行のお土産の勾玉のお守りだった。その話を電話で聞き、思わず木村校長が涙ぐんだのが、冒頭の場面だ。
すすり泣きがやむことがなかった2月21日の初上映は、「ぴあ映画初日満足度ランキング」で1位になった。
映画が注目される背景には、不登校児童のケアに対する関心の高まりもあるようだ。川崎市で中学1年の男子生徒が殺害された事件以来、「地域や学校はなぜ救えなかったのか」と疑問視する声は多い。加えて、文部科学省の学校基本調査によると、13年度に全国で不登校(年間30日以上欠席)だった小中学生は速報値で約12万人。前年度より7千人多く、増加したのは6年ぶりだという。
「川崎の状況がわからないので何とも言えないが、大空小学校だったら防げたのでは、というのが正直な気持ちでした。大空にも朝学校に来ない子はいます。でも、理由がはっきりしない場合であれば、そのままにはせず、必ず誰かが動きます」
そう語るのは真鍋俊永監督。12年度の1年間で138日間通い、撮り続けた。朝学校に来ていない子がいると、職員の誰かが自転車を飛ばして自宅へ駆けつける。地域と学校が融合する理想的な姿をその目で見てきた。
特別支援が必要な子も、感情を自分でコントロールできずすぐに教室を飛び出してしまう子も、みんな同じ教室で学ぶ。撮影した12年度は、全校児童約220人中、特別な支援を必要とする子は30人以上。外へ飛び出してしまった子を、教師が力ずくで教室に戻すのではなく、クラスの子が迎えに行く。
「学校はみんなでつくる。あなたもその一員」と校長に言われ続ける大空の子たちは驚くほど主体的だ。
※AERA 2015年3月16日号より抜粋