口元に自信がない。人とうまく話せない。そんな人たちが顔の下半分をマスクで隠す心地よさにハマっている。風邪予防にもなるからいいんですが……。
若者研究のために各地を調査する博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平さんは、近年マスクをしている人が増えたという印象を持っている。
数年前、群馬県高崎市の街頭で、男子高校生3人に声をかけた。女子高校の文化祭でナンパをしに行った帰りだという3人のうちの一人がマスクをしていた。「風邪をひいているの?」と聞いたら、「健康だがよくマスクをしている」という。“伊達マスク”の理由は、「そのほうが人と楽にしゃべれるから」。その背景について、原田さんはこう分析する。
「LINEなどのソーシャルメディアで“友だち”が増え、人間関係が複雑になった。それにうまく対応できないからではないか」
学校内だけでも、所属するグループが複数あり、性格も趣味も異なる子が交じって会話をする。その中でコミュニケーションが苦手な子は、目立たないよう、友達に喜怒哀楽が読み取られないよう、防御としてマスクをするようだ。
日本衛生材料工業連合会の調べによると、家庭用マスクの生産枚数は、2013年度で約29億枚。その98%が使い捨てだ。東急ハンズによると、この冬一番売れているのが黒色のマスクで若い男性に人気。韓流スターや日本の俳優などが黒マスクを着用し、ジワジワと人気が広がっているようだ。
その他フラワープリントが施されたものやチェック柄などバリエーションも豊富だ。小顔効果のあるマスクまで登場し、よく売れている。全体にファッション性が高い使い捨てマスクが人気だ。
実際に黒マスクを着用している男性(39)に話を聞くと、
「商談以外の社内や移動中にはよく黒いマスクを選びます。ダークトーンの仕事服やコートにもよく合う。スーツに白マスクだと浮いて見えて、違和感を感じたので」
現在では、風邪予防という本来の機能のほかに、ファッションの一部として楽しむ人が多いようだ。
※AERA 2015年2月23日号より抜粋