緊縮経営が空の旅を脅かしている。LCC台頭の裏で安全管理の簡略化が進む。航空業界が悩むコストか安全かの究極の選択。
4日、台北を飛び立ち、金門島に向かった台湾・復興(トランスアジア)航空235便は、離陸後間もなくエンジンが停止し、台北を流れる川に墜落した。偶然撮影された劇的な墜落シーンには身の毛がよだつ。映像を見ると、確かに片方のプロペラは完全に止まっている。12日に最後の遺体が発見され、死者は43人を数えた。
台湾メディアは、離陸前にパイロットがエンジン異常に気づいてアピールしたが、航空当局の罰金を恐れた会社側がフライトを強行させた、と報じた。会社側は否定したが、昨年7月に死者49人を出した事故を含め、10年で8度の事故を起こしたとされる同社の安全管理が今後厳しく問われることは確実だ。
航空評論家の秀島一生(いっせい)さんは、今回の事故で、ある日本の格安航空会社(LCC)の関係者から内々に聞いた話を思い出した。
パイロットがエンジンを修理すべきだと搭乗日誌に書いたが、整備側から「定刻に飛ばないとダメだ」と言われて日誌を書きかえられたり、破り捨てられたりしている──。
航空業界では、修理をせずに以後の整備に後回しすることを「キャリーオーバー」と呼ぶ。秀島さんはこう言う。
「いまはキャリーオーバーの基準が徐々に緩んでいます。目に見えないところで大切なコストが切り捨てられている」
昨年から今年にかけ世界的に大型事故が相次ぐ。理由はさまざまで、航空会社もLCCだけではないが、LCCの「エアアジア」はインドネシアで墜落事故を起こしたばかり。日本のLCCピーチ・アビエーションは昨年4月、那覇空港近辺で墜落寸前とも言われる海面への異常接近があった。
復興航空は台湾で最も古い航空会社でLCCではないが同じ路線に同業他社が参入して値引き競争を強いられていた。事故を起こしたATR機は燃費に優れるが故障も多いとされる。事故機は同社が昨年大量購入したうちの一機だが、安全性を疑問視して購入を控える会社もある。
空の価格競争は熾烈さを増し、各社ともコスト削減に必死だ。
※AERA 2015年2月23日号より抜粋