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 海外移住の動機は、仕事やセカンドライフのためばかりではない。子どもに理想の教育を受けさせるべく、日本を飛び出した家族がいた。

 英国スコットランド・エディンバラに本社を置く保険会社スタンダード・ライフ・インベストメンツ社で働く多次貴志さん(50)は、小学生の一人娘(10)を英国に留学させて、スティーブ・ジョブズのような洗練された話術を身につけさせたい、と考えていた。

 自身は高校時代の留学で得た英語力を武器に、ビジネスの世界で活躍してきた。しかし、ネイティブのような会話は難しい。英語が話せるだけで得する自分の世代と違い、これからは日本人も、英語での表現力や思考力がないと勝ち抜けないのではないか。それには教育が勝負だ、と。

 スコットランドは教育の歴史が長く、質の高い私立学校も多い。本社に出張するたびに学校訪問を繰り返し、エージェントには頼らずに学校選びを進めた。自分も本社への異動願いを出した。万が一、異動できなくても留学はさせたい。親元を離れる単身留学も視野に、妻の付き添いビザなども検討した。

「確かに心配でしたが、かわいい子には旅をさせるのが一番かな、と」

 幸い異動は認められ、13年、家族3人でエディンバラに移り住む。学校は19世紀末以来の歴史を持つ女子一貫教育校。外向的な性格の長女は言葉の壁もすぐに突破し、友だちもできた。

 平日は朝の8時半から午後3時半までびっしり授業で宿題も毎日あるが、「自分の王国」を想像させてその絵と説明を書かせるなど、子どもの想像力や表現力を育てるもので、多次さんが理想とする内容だった。

「歴史の年号の暗記なんかありません。先日の宿題は(スコットランドの国民的詩人である)ロバート・バーンズの詩の暗記でした。同僚たちが自然に名作の引用句を会話に盛り込めることに合点がいきました」

AERA  2015年1月19日号より抜粋