「保育園は必要だけど、隣にできては困る」「子どもは宝。我慢すべきだ」。大人同士の対立する議論が、地域再生の機会を奪っている。

 保育園を考える親の会(普光院亜紀代表)の調査によると、ここ10年間で私立の認可保育所は倍増している。

「都市部では、待機児童には認可の新設で対応する動きになりつつある。全体として認可が増えるのは、保育の質の面でも喜ばしいことです」(普光院さん)

 その半面、子どもの声がうるさいという苦情や送迎時のマナーの問題が表面化した。神戸市や東京都練馬区では訴訟に発展し、園側も園庭を屋上に造ったり防音壁を張り巡らせたりと、対策に追われている。

 東京都世田谷区の保坂展人区長は2年前、ツイッターで「保育園で子どもの声がうるさいというクレームがある」と問題提起した。が、「これが逆効果だったのかもしれない」と振り返る。

「少子化で子どもの声を聞かずに生活する人が増えたため、そんなに子どもがうるさいのなら保育園が近くにできては困る、と先入観を与えることになってしまった」(保坂区長)

 保育園が地域から敬遠される問題は「子どもを許容できない住民の身勝手」と論じられることが多く、もちろんそうした側面はある。だが、待機児童解消の目標のもと、「受け皿」を急ピッチで整えることに躍起になるあまり、地域に不協和音が起きていることが前提にあるのだ。

 保育園のトラブルに対応するサービス会社「アイギス」の脇貴志社長は、こう指摘する。

「私立の場合、事業者である社会福祉法人や株式会社は地元業者でないことも多く、住民が不安になるのは当然。事業者が『この問題にはこう対処する』と先回りして説明する姿勢が大切です。建てる前にもめ事になれば、保育園は針のムシロ。困るのはそこに通う子どもたちです」

AERA 2014年11月17日号より抜粋