仕事机は片付いていた方がいい…とは限らないかもしれない。雑然とした“カオス”な机だからこそ、生まれるアイデアもある。
アニメ演出家の数井浩子さん(49)の仕事場を訪ねると、机は書類の山、山、山。本棚には、ジャンル関係なく無秩序に書物が並ぶ。『SASサバイバル・マニュアル』『ビジュアル 歴史を変えた1000の出来事』『川村敏江 東映アニメーションプリキュアワークス』『対訳ディキンソン詩集』…という具合に。
「生活していると、見たり笑ったり考えたり、吸収するものがたくさんある。せっかく縁があって集まった断片を、排除しちゃうのはもったいないじゃないですか」
アイデアが煮詰まってくると、これらの本を手当たり次第に広げていくのだという。
数井さんは、「忍たま乱太郎」「ケロロ軍曹」など、これまで200作品以上の演出や作画、キャラクターデザインにかかわってきた。
数井さんが第1話のコンテを担当した西尾維新原作のアニメ「恋物語」。冒頭のシーンで印象的に用いられるのが京都・伏見稲荷大社の鳥居のトンネルだ。
総監督が気に入り、最後まで主人公のテーマイメージとして使用されたこのモチーフも、机の上に積み重なった資料のカオスから生まれた。渡されたシナリオと、以前の仕事の資料だった京都の写真集、通っている大学院の論文を書く参考文献として持っていたエッシャーのトリックアート本。これらが合体してシーンが完成したという。
「演出や作画のように、新しいものを作っていくときって、正解がないんです。正解がないものに立ち向かうときに、そのツールとして、複眼を持つことは大事。カオスな机が“連想”と“越境”という力をくれて、それがアイデアの源になる」
※AERA 2014年11月24日号より抜粋