この国には、ダムの数以上に、ダムを愛してやまない人たちがいる。その一途な思いは、どこから来るのか。何が彼らを引きつけるのか。

 120人分の前売りチケットは完売だった。東京・お台場のイベントホールに集った、着飾った男女の姿。手にはオリジナルの「ダムカクテル」。スパイシーなルーをライスの堤でせき止めた「ダムカレー」を頰張る人もいる。

 これは昨年末、ダムの活躍を顕彰するために開かれたイベント「日本ダムアワード2013」の光景だ。「放流賞」は、非常用水門の点検放流を一般に公開し、ファンの心をつかんだ川治(かわじ)ダム(栃木県)。渇水への対応が高く評価された早明浦(さめうら)ダム(高知県)には、「低水管理賞」が贈られた。

 最高賞の「ダム大賞」には、黄金に輝く「クレストゲート像」が授与される。クレストゲートとは、ダムの頂近くにある水門のことだ。

「ダム大賞は、日吉ダムです」

 主催者の萩原雅紀さん(40)が壇上で発表すると、会場に拍手と歓声が響いた。昨年9月、各地に大きな被害をもたらした台風18号の際の健闘ぶりを評価されての受賞だ。

 ダムアワードは今年も年末に開かれる。そこで示されるのは、ダム好きたちの「ダム愛」と「矜持(きょうじ)」。急峻な地形に豊かな雨が降り注ぐ日本には、急流が多い。そこに数多く築かれたダムを、愛してやまない人たちがいる。

 ダムライターでもある前出の萩原さんは2000年、ダム専門のホームページを立ち上げた。すると、「実は私もダムが好き」とカミングアウトするメールが20通近く届いた。

「全国的に見れば、月に1回はどこかでダム好きが集まるイベントが行われていると思う」

 そう話すのは、自称「ダムマニア」の宮島咲さん(42)。11年出版の著書『ダムマニア』(オーム社)は、約6千部が売れた。

AERA 2014年11月10日号より抜粋