アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回はヤマト運輸の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■ヤマト運輸 大阪主管支店 上町支店 支店長 冨田尊嗣(36)
見上げれば、勝鬘院の多宝塔。古寺が立ち並ぶ一角に、冨田尊嗣が支店長を務めるヤマト運輸の上町支店(大阪市天王寺区)はある。六つの営業所を束ね、3万世帯、6千事業所をカバーしている。
ネット通販の普及によって、宅配ビジネスは家庭への小口配送が増加の一途をたどる。上町支店の場合、1日に5千の荷物が出入りするが、そんなことでひるむ冨田ではない。むしろ、闘志をかき立てられるのだ。
「1時間でどれだけ多くの荷物を届けることができるか。仲間と山を乗り越えるのが、楽しくて仕方がない」
岡山県出身。高校卒業後に就職したが、20代半ばでヤマトに転職。生野支店(大阪市生野区)でドライバーを始めた。実は子どもの頃から、配送業には憧れていた。
「父親も同業者。屈強な肉体で弱音を吐くことがない。かっこよかったんです」
4年前に管理者試験を受け、生野支店で支店長になった。すぐに仕分け、配送の効率化策を発案し、社長賞をとった。
それは小さなイノベーションだ。地域の集配所には、物流センターから届く荷物をいったん保管するキャスター付きのかごが、たくさんある。このかごを置く場所を、ドライバーや仕分けスタッフの動線がなるべく短くなるように調整。早く配送に出かけられるようにした。在宅率が高い朝8時台により多くの荷物を届けることができ、不在票がぐっと減った。
ヤマトには「ラストワンマイル」という合言葉がある。お客さまがいる限り、どんな場所だろうと最後の1歩まで走り抜くという意味が込められている。次の配属先が離れ小島だったらどうか。
「どこだろうと行きますよ」
課題は克服するためにある。冨田はクライマーのように配送業を楽しむ。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・岡本俊浩)
※AERA 2014年8月4日号