タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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LGBT理解増進法ではなく、LGBT差別禁止法を。そう訴える署名運動に私も賛同しました。理解を増進することの何がいけないのかと疑問に思う人もいるでしょう。いたってシンプルな理由です。理解増進だけでは、今ある差別は解消されないからです。
人の命が等しく大切にされる社会とは、全員が互いに仲良く理解し合う社会ではありません。好き嫌いや仲の良し悪しや共通点の有無とは無関係に、人の命は全て等しく大切にされなければならないというルールが徹底される社会です。たとえあなたにとって理解し難い、何も似ているところがない人であっても、その人の命はあなたやあなたの家族の命と同じように大切に扱われるべきものです。なぜそうしたルールが大切かというと、もしもあなたが誰かにとって「理解できない、親しみの持てない人」になった場合に「死んでもいい人」にされてしまうかもしれないからです。だから、差別禁止法がなくてはならないのです。
今、G7サミットを前に成立が急がれているLGBT理解増進法には、自民党内の強固な反対の声により、性的少数者に対する差別を明確に禁止する文言は盛り込まれない見通しです。性的少数者に理解を示そうと謳いながら構造的な差別を容認するのは、差別温存法ではないですか。
LGBT差別禁止法は、性的少数者でない人たちの人権を何ら制限するものではありません。差別禁止法で唯一制限されるものは、「差別をする自由」です。人の命に軽重をつけ、少数者を排除し、憎悪をぶつけ暴力を振るう自由は、決して認められないと。あなたはそれで困りますか。それでは困る、社会が分断されると主張する人たちが政権中枢にいることをどう思いますか。理解増進という文言で誤魔化す差別温存法ではなく、LGBT差別禁止法の制定を強く求めます。
◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。
※AERA 2023年2月27日号