

ソウルミュージックをバックに踊る3人のダンサー。見入っていると突然、音楽が止まった。無音空間で、息の合った踊りだけが続いている。彼らは、耳が聞こえない「ろう」のダンサー。音楽を電気刺激で伝える装置を背中につけていた。
仲間うちの愛称は「ピリピリデバイス」。刺激を頼りに彼らが踊る様は、アート作品「musicfor the deaf」としてヨコハマ・パラトリエンナーレ2014で発表された。アイドルグループPerfumeの舞台演出などで知られるメディアアーティスト真鍋大度さん(38)ら開発チームと、佐山信二さん(27)が率いるろうダンサー集団SOUL FAMILYとのコラボレーションで実現した。
普段は携帯電話会社の手話カウンターで顧客対応をしている佐山さんは、学生時代にテレビの深夜番組で見たストリートダンスに惹かれ、踊り始めた。
「スピーカーから出る重低音の振動でリズムを捉えたり、補聴器で聴こえる一部の音を拾ったりして踊っていました」
追求するほどに聴覚の壁は高く感じられたが、友人に勧められて見たある映像に希望を感じた。真鍋さんが顔面に電極をつけ、音楽と同期した電気刺激で顔の筋肉を動かす「ElectricStimulus to Face」だった。
「見た瞬間、自分たちのダンスに応用できると思いました。色に変換した音に合わせて踊る構想はありましたが、電気刺激のほうが直接的でいい、と」
すぐに連絡を受けた真鍋さん。
「僕にはない発想の使い方。どこまでできるのか試したいという技術者的興味が湧きました」
まず、佐山さんたちが選んだ2曲を真鍋さんが譜面に起こし、踊る手がかりとなりそうな音を抽出。ドラム、ベース、キーボード、ボーカルとパートごとに、振動では感じ取れない高い音も含めて電気刺激に変換し、四つのチャンネルに割り振った。音階の違いには音の周波数を生かし、音が高くなると周波数が大きく、振動数も多くなる。
こうしてできあがった装置で音楽を「聴いた」佐山さんは、その「複雑さ」に衝撃的な感動を覚えたという。これまで感じ取れる振動は1種類だったが、今回は4種類を認識できた。電気刺激は振動に比べてクリアに伝わる。ヒップホップでメロディーに動きを合わせることを“音ハメ”というが、電気刺激のピリピリに合わせる“ピリハメ”もできるようになった。
※AERA 2014年10月13日号より抜粋