一人っ子政策の結果、“超高齢化社会”が眼前に迫る中国には、商機がある。日本企業も中国の介護・福祉市場に熱い視線を向けている。
上海は、中国で最も高齢化率が高く、高齢化・中国の最前線だ。その上海で日本企業として初めて有料老人ホームを設けたのは、千葉県浦安市に本社を置く介護サービス会社「リエイ」。「上海礼愛頤養院」を昨年12月に開所した。「礼愛」はリエイの中国ブランド名だ。238床を備え、「日本的介護」を前面に押し出す。
座ったままシャワーを浴びる装置や介護入浴機器、電動介護ベッド、リフトつき自動車など、最新鋭の介護設備を日本から直輸入するなどして導入した。
総経理の玉置哲馬さんには、忘れられない出来事がある。開所直後、寝たきりの男性が入居してきた。体を動かせないほど衰弱していたその男性を、風呂に入れ、体を動かし、食事を丁寧に食べさせていると、目を見張るほど回復した。
これには慣れない日本的介護に取り組む中国人スタッフも「大きな自信になった」(玉置さん)が、ある日突然、家族がその男性を別の施設に転院させた。「あまり元気になり延命されては費用がかさんで困る」という家族の事情があった。
中国では、家族も本人も老後の出費を抑えたがる心理が伝統的に強い。次世代に財産を少しでも残すべき、との価値観からだ。だから、費用がかかる介護をあまり受けたがらない。そもそも介護の概念が薄く、介護認定の基準もあいまい。要介護の人は、高級老人施設どころか、本来は受け皿となるべき公的施設も受け入れを拒む。中国の老人問題はいまなお混沌状況にある、と言ってもいい。
※AERA 2014年10月6日号より抜粋