多彩なキャリアや経験を持つ母親たちが活動するポラリス。暮らしの中で仕事をつくり出し、多様な働き方の実現を目指す。コワーキングスペース「cococi」では起業講座なども開く(撮影/写真部・岡田晃奈)
多彩なキャリアや経験を持つ母親たちが活動するポラリス。暮らしの中で仕事をつくり出し、多様な働き方の実現を目指す。コワーキングスペース「cococi」では起業講座なども開く(撮影/写真部・岡田晃奈)

私たち、こうして会社を辞めました
子どもが小さいうちは、仕事のギアをダウンして、できるだけ一緒にいたい。これって、わがままでしょうか。キラキラしなくていい。自分のペースで働きたいだけなのに
(編集部・石臥薫子)

 ママ社員4、5人でランチすると、話の中心になるのはたいてい女性上司。高校生と保育園児、2人の子どもを育てる「ワーキングマザー」だ。

「育休を1年も取ったら、感覚がなまっちゃうわよね。私なんて、3カ月で復帰したわよ」

 マスコミで働く女性(37)はパスタをつつきながら、とりあえず相づちを打つ。おそらく上司に悪気はない。連日、午後10時まで働くバリキャリで、

「下の子は夕食を毎日保育園で食べさせてもらってるの」
「子どもが水ぼうそうになったときだって、休まなかった」

 など、武勇伝を挙げれば枚挙にいとまがない。上司にとってこれこそが、「両立」なのだ。

●「両立管理職」が最強

 女性は時短で出産前と同じ部署に復帰したが、ワーママが上司のほうが理解があっていいだろうという「配慮」で、件の女性上司の部署と兼務になった。しかし、冒頭のような発言が繰り返され、何げない会話からは、午後4時には会社を出ることを「ありえない」と思っていることが明白。査定では「とても有能。時短さえ解消すれば次のステップにいける」と書かれた。

 会社はフルタイムでなければ一人前とは認めてくれないのか。日々、「あなたはなぜ頑張らないの?」と責められているように感じて、2人目の育休明けで退職を決めた。

「ワーキングマザー」の位置づけは、時代とともに揺れ動いてきた。専業主婦世帯を共働き世帯が抜いたのが1990年代後半。少子化が加速するなか、DINKSは肩身が狭くなり、子どもがいる女性が「勝ち組」になった。安倍政権では、女性の活躍が「日本経済再生のカギ」とまで持ち上げられ、今や「両立しながら管理職」が最強。これが目に見えないプレッシャーとなって、自分のペースで働こうとする人たちを苦しめている。

 今年6月、人気ブロガーのちきりんさんはブログに「仕事と家庭の両立なんて、目指すのやめたらどう?」と書いた。
 パートナーや子どもと離れて単身赴任したり、残業できないことに罪悪感を覚えるような「両立」より、家族の穏やかな暮らしのために、ある時期仕事を辞めたっていい。一度リタイアしても、やりがいと適切な報酬を得られる仕事に戻れる社会を目指すほうがいいのでは──。

●イライラが伝染する

 育休から復帰したばかりの女性(35)はこのブログに「救われた思いがした」という。

 深夜労働が当たり前の広告業界に時短で復帰した。上司からは「時短だからつまらない仕事を与えるなんて不平等だろう?君は優秀だったんだから、期待レベルは下げないよ」と告げられた。自分で手を動かすのが好きだったが、限られた時間で最大の成果を出すためにマネジメントに徹した。必死に頑張ること3カ月。朝、目覚めると、天井がグルグル回って立てない。前日、大阪に日帰り出張した疲れだろうと思ったが、1カ月以上たったいまも不調が続いている。

 夫は協力的で「完璧を目指さなくていいよ」と言うが、急いで作った夕食を子どもが食べなかったりするとイライラが爆発。夫自身も精いっぱいなだけに、互いのイライラが伝染する。2人ともこんなに頑張ってるのに、なぜ?

 コンサルティング会社ワーク・ライフバランスの大塚万紀子さんが指摘した「原因」は、日本企業の、1年のトータルでどれだけ高い山が積めたかという「期間あたり生産性」に基づく評価だ。これでは、実際は生産性の低い社員が評価される一方、時間に制約がある社員は圧倒的に不利。いまは子育て中の社員ばかり目立つが、今後は親の介護で制約を抱える社員が増える。このことを前提に、「社会全体の仕組みを変えていくべきだ」と大塚さんは言う。

 昨今は多くの会社がダイバーシティー推進を掲げるが、制度があっても運用する側の意識は旧態依然というケースも多い。

 外資系企業で10年以上マーケティングの仕事をしてきた女性(36)は、第1子が保育園に入れず、育休の延長を申請した。すぐに上司から連絡があった。

「延長するとあなたのポジションはないかもしれない」

 仕事を手放したくない一心で、月額の保育料15万円というプレスクールに子どもを預けフルタイムで復帰したが、今夏、第2子の出産を目前に退職した。

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