忙しさの正体とは…… (撮影/伊ケ崎忍)
忙しさの正体とは…… (撮影/伊ケ崎忍)
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早く、早く返信しないと。わずかな電車移動の時間にもスマホに手が伸びる。休みの日も何度もメールチェックしてしまう(撮影/伊ケ崎忍)
早く、早く返信しないと。わずかな電車移動の時間にもスマホに手が伸びる。休みの日も何度もメールチェックしてしまう(撮影/伊ケ崎忍)

 世のビジネスマン・ビジネスウーマンは忙しい。だがその忙しさは、一体どこから来るものなのか。改めて考察してみた。

 アエラは今年6月、首都圏の1都3県に住む30~50代の会社員男女527人を対象に調査を行った。そこでは、6割が「以前より忙しいと感じる」と回答。忙しいと感じている人の3割は「職場の人員が減った」ことを、7割は「仕事量が増えた」ことを、忙しさの要因に挙げている。

 私たちの忙しさを加速させた「戦犯」のいくつかは、すぐに思い当たる。一つは、2003年の「四半期決算」導入。今までは半期に一度でよかった決算を、3カ月ごとにやらなければならなくなった。資料作りから記者会見まで、それにまつわる仕事量は膨大だ。08年のリーマン・ショックが引き金となって起こった大量リストラは、直接的に職場の人員を減らした。日本生産性本部によると、パートタイム比率もこの15年で約2倍になり、結果として、少なくなった正社員の業務量を増やした。

 1986年の生活時間と2011年のそれを比較すると、違いは明らかだ。高性能家電が普及したからだろうか、2011年の家事にかける時間は大幅に減ったが、日本人は睡眠時間を少し減らして、働き、子どもを育て、余暇やコミュニケーションのための時間を増やしている、という傾向が見えてきた。「社会人」という役割のみならず、「家族」や「地域」でもそれぞれに役割を担い、疲れきっているように見える。

 精神科医の香山リカさんは、このような「忙しさ」の始まりを、95年に生まれた「モンスター」に見る。

 会議中にパソコンを開いて「内職」する。飲み会ではスマホを眺めながら適当に相づちを打つ。自転車に乗りながら英会話を聞く。09年ごろの「カツマー」ブームで、勝間和代さんが提唱する「隙間時間の有効活用」は一気に加速、いくつものことを同時に進める「マルチタスク」が当たり前になった。
 
 95年に発売された「ウィンドウズ95」がきっかけになった。人間は元来、仕事を一つ一つ順番に片付けてきた。しかし、このOSを搭載したパソコンは、いくつものウィンドウを同時に開いて、同時に進めるというワーキングモデルを生んだ。香山さんはこう分析する。

「すべてが『マルチタスク化』したことが、気分的な忙しさを生んでいます」

AERA  2014年6月30日号より抜粋