「理想を抱いてここに来て、責任を担って去る」。印象深い一言を残し、占拠を解いた(撮影/朝日新聞社・鵜飼啓) (c)朝日新聞社 @@写禁
「理想を抱いてここに来て、責任を担って去る」。印象深い一言を残し、占拠を解いた(撮影/朝日新聞社・鵜飼啓) (c)朝日新聞社 @@写禁
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 台湾の国会にあたる立法院を23日間にわたって占拠した異例の学生運動を引っ張った林飛帆氏。そのリーダーシップが脚光を浴び、占拠の日から着続けた「勝負服」の無印良品のジャケットにも人気が集まった。日本の「無印」で買えば6千円ぐらいだが、台湾では日本円で1万円以上する。それが売り切れるほど、25歳の一挙手一投足に熱い視線が注がれた。

 台湾の立法院といえば、激しい与野党対立のなか、立法委員がもみ合ったり、水を掛け合ったりする映像が有名だ。だが今回の主役は10代から20代の若者たち。中国と調印した中台サービス貿易協定の承認審議を強引に進めようとした馬英九政権に対し、立法院に乱入する実力行使に出た。以来、バリケードを築いて「陣地」を守り通した

 王金平・立法院長は学生が要求した中台交渉を監督する条例の制定を認め、制定まで審議を行わないと表明。林氏ら学生は所期の目的を達したとして「撤退」を決め、議場などを掃除したうえで4月10日夜、長い戦いに潔くスッパリと幕を引いた。馬政権が目指した協定の早期承認は難しくなった。

 占拠中の立法院で林氏を取材したジャーナリストの福島香織さんは、その人柄をこう語る。

「演説も巧みだけど、とにかく相手に気配り、配慮ができるクレバーな人。少数派の意見にもしっかり耳を傾け、決断するときは決断する。日本人の学生にこれだけの運動ができるかといえば無理だと思います」

 福島さんが驚いたのが組織運営のノウハウの豊富さだ。

 占拠の場に「ロジ」「医療」「情勢分析」「メディア」「ウェブ発信」「イベント」「秩序維持」「ポスター」など10以上のチームを設けた。各自に目的意識と任務を与え、ばらばらになりやすい若者をまとめあげる。企業や軍隊の組織論にもかなっている。

 ケンカもうまい。台湾の馬政権には、龍応台という台湾一の人気作家が文化部長として入閣している。龍氏が「学生たちの行動力は100点だが、思想が薄弱だ」と批判すると、林氏はすかさず龍氏が90年代に別の学生運動を支持していたことを指摘。「権力に取り込まれた龍氏こそ思想が弱い」と、スパッとやりこめた。

AERA  2014年4月21日号より抜粋