昨年12月26日に靖国参拝した安倍首相は、「二度と人々が戦争の惨禍に苦しむことがない時代をつくる、との決意を込めて、不戦の誓いをいたしました」とコメントした (c)朝日新聞社 @@写禁
昨年12月26日に靖国参拝した安倍首相は、「二度と人々が戦争の惨禍に苦しむことがない時代をつくる、との決意を込めて、不戦の誓いをいたしました」とコメントした (c)朝日新聞社 @@写禁

 昨年末以来、安倍晋三首相は“躁状態”が続いているという。1月6日の年頭記者会見では、景気回復や憲法改正などへの意欲を語り、7日に都内で開かれた新年互礼会では、参加した政治家や経済人らを前に「(都知事選候補として)我こそはという人は手を挙げていただきたい」と冗談めかして呼びかける。

 年明け早々に掲載された夕刊フジのインタビューでは、昨年を振り返って、「この1年があって、これからの日本の10年がある。そういう1年だった」と自信をみなぎらせたが、こうした言葉にも心身の充実ぶりが表れているといえるだろう。

 それもこれも“転機”は、昨年末の靖国神社への参拝だったのかもしれない。政権発足からちょうど1年の昨年12月26日、安倍首相が、7年4カ月ぶりとなる現職総理の参拝を果たしたのは、首相が自らの信念を貫いたという以上に、実は、政治的に大きな意味がある。

 それは、政権発足以来、なんだかんだ現実路線を重視してきたはずの安倍首相が、初めて側近である菅義偉官房長官の制止を振り切ったことである。

「実は、安倍首相は政権発足直後の2012年12月27日にも参拝を計画していましたが、このときは積極派の飯島勲内閣官房参与と、慎重派の菅官房長官や今井尚哉首相政務秘書官との間の猛烈なバトルの末、踏みとどまった。それが今回、外交問題化を懸念する菅官房長官らがギリギリまで自制を求めたにもかかわらず、首相が押し切ったのです。菅官房長官の言うことは聞くと思われていたのが、もはや違うということが明らかになってしまった」

 と語るのは、ある官邸関係者だ。

 昨年7月の参院選で自民党が圧勝し、「ねじれ国会」が解消されたときから、今後、“安倍色”が強まるであろうことは指摘されてきた。ある意味、それから5カ月がたって安倍首相がついに自我に目覚めたということなのだろう。

 しかし、それがこういう形で表出したとなると、今後の政権運営への不安はぬぐいきれない。国際政治学者の白石隆・政策研究大学院大学学長も、こう語る。

「靖国参拝はするべきではなかった。外交的に得るものは何もない。正直、参拝したと聞いて暗澹たる気持ちになりました」

 白石氏は、安倍政権の進める国家安全保障会議(日本版NSC)の創設、集団的自衛権の行使容認、武器輸出三原則の緩和などに賛成の立場で、憲法改正論者でもある。しかし、だからこそ、靖国参拝は「悪手」だったとみる。

「安倍政権が発足した当初、欧米の進歩的なメディアは『右翼政権だから中韓が反発している』という見方をした。それがだんだんと、実は中国、韓国がおかしいのではないか、という展開になりつつあったのに、靖国参拝が台無しにしてしまった。中韓はあらゆる機会に、日本が右傾化しており、安倍首相は第2次大戦を正当化しようとしていると批判するでしょう。欧米でも、それに同調する向きが出てくる。彼自身が押し戻してしまったのです。これで日本外交は今後、かなり苦しくなる」

AERA 2014年1月20日号より抜粋