兵庫県尼崎市で起きた中学3年の男子生徒への性的虐待事件で、事件を主導した沖野玉枝被告(43)と少年少女らの不可思議な共同生活が明らかになった。少年らは沖野被告のことを「ママさん」と呼び、共同生活を「居心地が良かった」などと話しているという。一方で、沖野被告は気に入らないことがあると平手打ちしたり、棒で体をたたくなど、日常的に暴力を振るう一面もあった。さらに、沖野被告は少女らを自身の経営するスナックで働かせたり、売春させた疑惑も浮上しているという。

 不思議なのは、なぜ少年少女らが沖野被告のもとから逃げなかったのかだ。少年捜査課の幹部もこう首をかしげる。

「彼らは『逃げると何をされるかわからず怖かった』と供述する一方で、買い物に行ったり、ゲームセンターに行ったり、着替えのために自宅に帰ったりもしていた。怒らせたら怖いという認識もあっただろうが、暴力による支配ということではないと思う」

 だが、DVや虐待に詳しいカウンセラーの信田さよ子さんは、アメとムチを駆使し、被支配者の自発的な服従を生み出すやり方は、決して力の強くない女性に多い「支配」の常套手段なのだと指摘する。

「家出していたり、親から見放されていたりと、居場所のない子どもたちに、『あたしだけがあんたを引き受けるよ』と恩を売る一方、効果的に暴力を振るうことで、共同体から出られないようにしていく。沖野被告がどこまで自覚的だったかはわかりませんが、構図はDVと同じです」

 そして、その手口は同じ尼崎で起きた連続変死事件の主犯である角田美代子元被告(留置施設で自殺=当時64)に酷似しているという。

 角田元被告の事件を追ったルポ『家族喰い』(太田出版)を書いたフリーライターの小野一光さんも、他人を家族に模した共同体に引っ張り込んで、からめとっていくところに角田元被告と共通するものを感じるという。

「角田元被告の事件でも、今も行方が分からず事件化されていない人がいました。今回も多くの未成年がいなくなっていたにもかかわらず、事件が発覚するまでまったく問題にならなかった。これは氷山の一角に過ぎない。今も日本各地で、水面下で似たような事例が起きていると思います」

AERA 2013年12月23日号より抜粋