原発事故から2年8カ月がたつのに進まない除染作業。市民のいらだちは、市長に向かった。11月17日投開票の福島市長選で、4選をめざした現職の瀬戸孝則氏(66)が、新顔の元環境省職員、小林香氏(54)に、2倍以上の得票差をつけられて惨敗したのだ。
瀬戸氏は自民、公明、社民の市支部から推薦を受け、自民党の野田聖子・総務会長や地元選出の森雅子・少子化担当相らが相次いで応援に入ったのに負けた。前回の市長選で瀬戸氏に投票したという女性(56)は、
「今回は絶対に嫌だった。事故から2年以上経つのに子どもの通学路の除染も進んでいない。仮置き場の設置も遅れている。市長が私たちの思いを代弁して国や東京電力の責任を追及し続けてくれたらと期待したのに、応えてくれなかった」
女性の家の庭近くには、青いビニールシートで覆った汚染土が、放置されたままだ。
「震災の後、市長は逃げたんだべ」「山形に行っていたらしい」…多くの市民が、そんな噂を口にする。瀬戸氏を支援した自民党系の市議は悔しがる。
「ある意味、風評被害ですよ。瀬戸さんは再三否定したが、噂を払拭できなかった。原発事故の一番の責任者は国や政府、東電であるにもかかわらず、目の前の市長が不満のはけ口になってしまった」
衆院福島1区選出の亀岡偉民・復興政務官(自民)は、
「子どものいる母親は、いろんな情報に接して不安を抱えている。いくら『国が全責任を持ちます』と言っても不安は消えず、政治家自体を嫌いになっている。その結果、何の政治経験もない人を市民が選んでしまった」
票差がダブルスコアまで開いた背景には、保守勢力が分裂したという事情もある。朝日新聞の出口調査では、自民支持層の6割以上の票は、小林氏に流れた。その原因について、地元政界関係者は明かす。
「自民党支部は瀬戸氏を推薦しましたが、それは一部の県議らの独走です。結果的に反発が広がりました」
その結果、前出の亀岡氏の後援会は真っ二つに割れた。亀岡氏は「多忙」を理由に、選挙期間中、一度も地元入りしなかった。瀬戸陣営幹部は言う。
「後援会が亀岡氏に『動くな』とクギを刺したんです。公明党も最初から腰が引けていて、創価学会が全然動かなかった」
※AERA 2013年12月9日号より抜粋