順天堂大の堀江さんによると、男性の一生で、テストステロンが大きな働きをする次期は3度あるという。胎児の時、胎内でテストステロンのシャワーを浴び、「男の子」として生まれる。2~3歳の頃、テストステロンの分泌量が急激に高まり、思考が男性的になる。そして思春期。筋骨がたくましくなり男らしい体がつくられていく(撮影/写真部・工藤隆太郎)
順天堂大の堀江さんによると、男性の一生で、テストステロンが大きな働きをする次期は3度あるという。胎児の時、胎内でテストステロンのシャワーを浴び、「男の子」として生まれる。2~3歳の頃、テストステロンの分泌量が急激に高まり、思考が男性的になる。そして思春期。筋骨がたくましくなり男らしい体がつくられていく(撮影/写真部・工藤隆太郎)
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「更年期障害」というと女性のものだと思いがちだが、実は男性にもある。女性と同様の症状があり、重い場合には仕事にも大きな支障をきたす。

 それは初めて単身赴任した時だった。東京在住の男性は自分の体調の異変に気づいた。約10年前、50歳を迎えようとしていた。何事にもやる気が出なくなり、外に出ることも人に会うこともおっくうになった。

 赴任先を訪れた妻は夫の変わりように驚いた。仕事から帰宅した夫は、うなだれて玄関先に座り込み、まったく反応を示さない。食事も、ほんの少し手をつけるだけ。休日は自宅にこもったきり。

 精神科を受診し、抗うつ剤や精神安定剤を服用しても改善はみられないまま、約3年後に仕事を辞めた。妻は思った。

「本当に精神疾患かしら? もしかしたら男性更年期障害では?」

 男性更年期障害の治療もする心療内科を探し検査してもらうと、ホルモンの減少による更年期障害と診断された。治療は、テストステロンの筋肉注射による男性ホルモン補充療法(ART)と、テストステロン値を高める作用のある漢方薬、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の併用と決まった。治療を始めて3年ぐらいで、かなり状態が落ち着いた。昨年、医師からテストステロンの注射をやめても大丈夫と言われた。

 男性は、症状が出始めた頃を、「なんの病気か分からずつらかった。うつうつとしていた」と振り返る。今は、再就職先の営業部長として働いている。

この男性の診療にあたった泌尿器科医、堀江重郎さん(順天堂大学医学部泌尿器科学講座教授)によると、男性更年期障害の潜在患者は約600万人と推計されている。しかし、実際に適切な治療を受けている人は、わずか2万人にすぎないという。

AERA  2013年10月14日号