ア・テール・オブ・ゴッズ・ウィル/テレンス・ブランチャード
ア・テール・オブ・ゴッズ・ウィル/テレンス・ブランチャード
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寄せては返す波のような感動のカタルシス
A Tale Of God’s Will / Terence Blanchard

 2005年にニューオリンズを襲ったハリケーン・カトリーナ。その爪痕は今も同地に色濃く残る。ベネフィット・コンサートや追悼アルバムを通じて哀悼の意を表明する音楽家が少なくない中、1人のジャズ・トランペッターが立ち上がった。愛する故郷が被った災害が、創作意欲を猛烈にかきたてたのである。

 本作はスパイク・リー監督のドキュメンタリー映画のためにブランチャードが作曲したナンバーを含む8曲に、メンバー提供の5曲を加えた全13曲の構成。トータルなコンセプトと明確なメッセージに貫かれている。この悲劇に対してブランチャードばかりでなく他のメンバー全員が自分の身に起こった出来事として受け止めた、共通の思いがそこにあるからだ。怒りと悲しみ、そして絶望。しかし希望を抱いて生きていかなければならない、というメッセージがサウンドから伝わってくる。

 前作はハービー・ハンコックがプロデュース&ピアノで参加する話題性もあったが、今回はレギュラー・クインテットを基本としており、シリアスなテーマのもとでバンドの結束も高まった。何よりポジティヴな姿勢を強く打ち出すブランチャードのハイ・ノートが冴え渡っているのが素晴らしい。さらに交響楽団も加わったサウンドが、寄せては返す波のように感動のカタルシスをもたらす。映画音楽でも実績のあるブランチャードのペンが光る秀作である。

【収録曲一覧】
1.Ghost Of Congo Square
2.Levees
3.Wading Through
4.Ashe
5.In Time Of Need
6.Ghost Of Betsy
7.The Water
8.Mantra Intro
9.Mantra
10.Over There
11.Ghost Of 1927
12.Funeral Dirge
13.Dear Mom

テレンス・ブランチャード:Terence Blanchard(tp,cond) (allmusic.comへリンクします)
ブライス・ウインストン:Brice Winston(ts,ss)
アーロン・パークス:Aaron Parks(p)
デリック・ホッジ:Derrick Hodge(b)
ケンドリック・スコット:Kendrick Scott(ds,per)

録音:2007