それは「狩り」だった。
ツイッターで悪事(飲酒運転、喫煙)自慢をした女子短大生の実名や顔写真を晒し、大津市のいじめ事件ではネット上に関係者とされる人たちの実名や住所も書き込んだ。そして6月、自身のブログに病院を「ここは刑務所か!」と書き込んだ岩手県議に〈馬鹿だな〉〈氏ねよ〉など罵声を浴びせ、県議は遺体で見つかった。ネット上を徘徊して「悪事」を探し出し、熱狂的に叩く人たちを「ネット自警団」とも呼ぶ。
誰が、何のためにネット上で「私刑(リンチ)」を執行するのか。心理学者で、「MP人間科学研究所」代表の榎本博明さんは言う。
「現実社会の中で人とうまくいっていない人が多い気がします。自分の意見を発信したい、ムカついたから発散したいと、衝動的な行動をとる人が多い」
榎本さんによれば、ヒトの攻撃衝動は匿名になると触発されやすい。しかもネットは、意識のコントロールが利かない衝動部分が解放され、日ごろ理性で抑えているもう一つの人格が出てきやすいという。
大津市のいじめ事件ではネット上の掲示板「鬼女板」が話題になったが、「鬼女」を自称する専業主婦の女性(49)は、こう話す。
「私自身、性格的にのめり込みやすく、自己主張や自己顕示欲が強いのだと思います」
女性は、大津市のいじめ事件の時も多くの人に知ってほしいという思いから、ネットに書き込みをした。個人を特定する書き込みはしていないが、いじめ加害者のプライバシーが丸裸にされたことについて「自業自得」と話す。
「相手が守られれば守られるほど怒りが強くなります」
先の榎本さんが言う。
「ネットに書き込む人は自分なりの正義感を持っていることが多く、書き込みが効力を発揮し相手にダメージを与えると、自分が力を持っていると錯覚してしまう」
正義は、意図はなくても表と裏の危うい両面を持つ。人間が心に持つその毒を自覚しネットに向き合うことが、病魔にのみこまれない術だ。
※AERA 2013年8月26日号