池井戸潤(いけいど・じゅん)1963年、岐阜県生まれ。慶応義塾大学卒業。98年『果つる底なき』で江戸川乱歩賞、2010年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、11年『下町ロケット』で直木賞。代表作に『空飛ぶタイヤ』など。近著に『ようこそ、わが家へ』など(撮影/写真部・関口達朗)
池井戸潤(いけいど・じゅん)
1963年、岐阜県生まれ。慶応義塾大学卒業。98年『果つる底なき』で江戸川乱歩賞、2010年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、11年『下町ロケット』で直木賞。代表作に『空飛ぶタイヤ』など。近著に『ようこそ、わが家へ』など(撮影/写真部・関口達朗)
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「やられたら倍返し」とすごむ堺雅人の快演で、「あまちゃん」超えの高視聴率をマークしているドラマ「半沢直樹」。原作は池井戸潤さんの『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』。バブル期に都市銀行に入行した主人公の半沢直樹は、内外からのさまざまな圧力に立ち向かい、跳ね返していく。

 これら2作に続く半沢シリーズ第3弾の『ロスジェネの逆襲』も23万部のヒット。「週刊ダイヤモンド」に連載中は読者アンケートで特集記事を抜いて満足度1位にランクされ、連載小説がビジネス誌の巻頭を飾るという異例の事態となった。

 連載中からサラリーマンには身近な物語として読まれていた。「自分の職場と重ね合わせて読んでいる」「理想を目指す主人公の姿に勇気づけられる」「仕事に対する心構えは心に残った」などの感想が読者から寄せられた。当時編集長だったダイヤモンド社の田中久夫さんは、

「会社の人事を理不尽と感じる人は多い。『人事が怖くてサラリーマンが務まるか』という半沢の言葉も響いたようです」

 と話す。半沢はとにかく熱い。「プレッシャーのない仕事なんかない」「世の中の矛盾や理不尽と戦え」「だったら、お前が変えろ」「どこに行かされるかは知らないが、行ったところでベストを尽くす」など、ページにちりばめられた言葉に付箋をつけながら読む人もいる。モチベーションが上がりそうだ。しかし作者の池井戸さんは、

「半沢の真似はしないほうがいいですよ」

 と笑顔で語る。実際に職場で半沢を気取れば痛い目にあうのは必至。言いたいことは半沢に言ってもらってスッキリすればいいのだ。

 池井戸さんは大学卒業後、銀行に勤めていた。物語は架空でも、登場人物の心の動きにはリアリティーがある。

「サラリーマンが読んだときに、たぶん彼ならこう考えるよな、と思えることをいちばん大事にしています」

 半沢のセリフは考えて書くというより、池井戸さんにとりついた半沢が書くという。

「ストーリーをゆるく作っておいて、あとは半沢に任せる。すると自然にセリフが出てきます。他の登場人物も、40歳の男性ならどんな子ども時代を過ごして、何が趣味で、どんな考え方をするのか、本当に生きている人だと思って人間性を感じながら書く。そうすればブレない」

 会社員を書き続ける池井戸さんは、仕事についてどう考えているのだろうか。

「くだらない上司やいやな客はどこにでもいる。不満を抱えてどこにでもいる。不満を抱えていてはもったいない。与えられた仕事の中で工夫すればリターンがあるはずです。仕事は人生のすべてにかかわる根幹のようなもの。自分にはどの小説も勝負作だから、できることはすべてやろうと思っています」

AERA 2013年9月2日号