日本では「日中戦わば」を特集する雑誌や新刊書が書店に並び、好戦的気分を盛り上げている。AERA9月10日号に述べたように中国海軍はなお弱体だが、問題は空軍だ。
中国空軍は冷戦期にソ連と対峙していた時には4500機もの戦闘機・攻撃機を持っていたが、現在は約1400機に減り、うち近代的な「第4世代戦闘機」(ロシア製Su27、同30、その国産型J11、国内開発のJ10など)は約570機だ。航空自衛隊はその半分の約290機(F15、F2) だが、空中早期警戒機(半径400キロ以上の距離で敵機をレーダーで探知)17機や、地上レーダー、指揮機能、電子戦能力(電波妨害など)の技術面ではおそらく勝る。
また中国機のロシア製エンジンは故障率が高いことが知られ、実動率は低いと考えられる。だから機数が2対1でもなんとかなりそうに思えるのだろうが、実は問題は飛行場だ。
現在、航空自衛隊は滑走路1本の那覇空港の一部を使い、F15の1個飛行隊(20機余)を置いている。一方、中国空軍は東シナ海、台湾に向かい合う南京軍区に少なくとも16基地を設け、戦闘機9個連隊、攻撃機3個連隊、爆撃機2個連隊を配備していると推定される。うち近代的戦闘機は5個連隊で、正規編成だと180機だ。
緊張時には那覇空港の民間機は避難するから、F15の1個飛行隊程度を増派することは可能だろうが、約4対1の数的劣勢は技術や搭乗員の練度では補い難いと思われる。
沖縄は離島の飛行場が多く、1500メートル以上の滑走路を持つ飛行場が8カ所(嘉手納、普天間、大東諸島を除く)もあるが、戦闘機部隊の展開には大量の整備・支援機材、車両の移動が必要で、他の基地からそれを輸送すれば、その間その戦闘機部隊は戦力外になるから簡単ではない。もし東シナ海の制空権を失えば日本の水上艦、哨戒機の行動は困難になる。
米空軍は嘉手納にF15を48機置いているが、他国の領土紛争に関与しないのは米国の対外政策の原則で、米国の駐中大使は「絶対に関与しない」と明言している。安保条約第5条も双方は「自国の憲法上の規定及び手続きに従って」行動する、としているから参戦には米議会の承認が必要だ。
また「日米防衛協力のための指針」では、防空や着上陸侵攻の阻止、排除は自衛隊が「主体的に行う」(英文では「一義的責任を負う」)と定めている。中国との経済関係をますます重視する米国が、日本の無人島のために中国と戦うことは、あてにしないほうがよいだろう。
※AERA 2012年12月3日号