ヨーロッパの新世代トリオが世界進出の勝負
January / Marcin Wasilewski
2005年10月、ポーランド大使館で観たトーマス・スタンコ・カルテットは、同年屈指のライヴであった。そこでステージを務めたリズム・セクションは、すでにヨーロッパでは名声を確立していた新世代トリオ。シンプル・アコースティック・トリオ(SAT)の名に記憶がある向きも少なくないだろう。
本作は2000年にSAT名義の輸入盤『ハバネラ』をヒットさせ、2005年にマルチン・ボシレフスキ・トリオとして再スタートを切った彼らの、3年ぶりとなるECM第2弾だ。スタンコのリーダー作での好演で評価を高めていたところに、単独作でもさらに注目を集めた。サクセス・ストーリーのモデルを歩むボシレフスキ3にとって、この新作はスタンコの傘下から離れての真価が問われる局面となる。そんな状況で彼らは、アルバム・コンセプトを含めて前作とは異なるセッティングを準備した。
ボシレフスキの自作曲が半数以上を占めた前作とは趣を変えて、リスナーの目をひくカヴァー曲をチョイス。幻想的な雰囲気を湛えたゲイリー・ピーコック曲《ヴィネット》、近年ジャズ・ミュージシャンからの支持がじわじわと湧いているプリンスの《ダイアモンズ・アンド・パールズ》。テンポ・ルバートからフリー、さらにアップ・テンポへと転換する《キング・コーン》は、作曲家カーラ・ブレイが何故これほどまでに欧州のミュージシャンをひきつけるのかについて考えさせられるトラックだ。
ECMの本拠地と言っていいオスロのレインボウ・スタジオから、今回数多くのジャズ作を生み出しているNYのアヴァター・スタジオへ乗り込んだ理由とは何か。同スタジオでの録音とは思えない空気感のオリジナル曲《ザ・キャット》を聴きながら、いよいよ北欧制作の実績をベースとした音作りで、世界進出の勝負をかけられる環境が整ったとの、彼らのメッセージが浮かび上がってきたのだった。
【収録曲一覧】
1. The First Touch
2. Vignette
3. Cinema Paradiso
4. Diamonds And Pearls
5. Balladyna
6. King Korn
7. The Cat
8. January
9. The Young And Cinema
10. New York 2007
マルチン・ボシレフスキ:Marcin Wasilewski(p) (allmusic.comへリンクします)
スワヴォミル・クルキエヴィッツ:Slawomir Kurkiewicz(b)
ミハウ・ミスキエヴィッツ:Michal Miskiewicz(ds)
2007年2月ニューヨーク録音