研ぎ澄まされた感性から、生まれる音楽
Holon / Nik Bartsch's Ronin
ECM第2弾となる2年ぶりの新作である。ニック・ベルチュは1971年、スイスのチューリヒ生まれで、2003~04年に奨学金を得て日本に滞在し、我が国の文化を学びながら作曲活動を行った親日家。黒澤映画への傾倒が高じてバンド名を“ローニン”としたことでも、それはわかるだろう。バンドは2001年に結成されている。
前作と同じメンバーによるレコーディングは、多重録音、ループ、追加電気音がないことをモットーとする「リチュアル・グルーヴ・ミュージック」を標榜したもの。淡々と進むオープニング・ナンバーは、ミニマル・ミュージックに通じる手法と言える。
2006年に体験した来日ステージでの印象を重ね合わせると、武道に心酔するアーティストらしい求道者にも似た佇まいのベルチュをはじめとするメンバーの、高い集中力がこれらの演奏を可能にしていることがわかる。
本作中最長の15分近い《モジュール41_17》は静かに燃え上がり、5分過ぎになると永遠に終わらないと思わせるような連続性が浮かび上がってくる趣。研ぎ澄まされた感性が備わっていなければ、この音楽を生み出すことはできまい。
本作を含めてベルチュはこれまで自作の曲名を、「モジュール+ナンバリング」としてきた。音楽性と合わせて、一見無機質なイメージを与えるかもしれないが、実は厳格に自己をコントロールするミュージシャンの肉体性に気づき、彼らのプロフェッショナリズムに思い至るのだ。
e.s.t.の諸作や菊地雅章『ススト』が好きなリスナーには特に、本作を薦めたい。ジョン・ケージ、モートン・フェルドマン、スティーヴ・ライヒから音楽的示唆を受けたベルチュ。このアルバムを聴きながら、「現代音楽を聴くことは、自分自身を発見すること」というジョセフ・ラヴ師の言葉を、ふと思い起こした。
【収録曲一覧】
1. Modul 42
2. Modul 41_17
3. Modul 39_8
4. Modul 46
5. Modul 45
6. Modul 44
ニック・ベルチュ:Nil Bartsch(p) (allmusic.comへリンクします)
シャー:Sha(b-cl,as)
ビョルン・マイヤー:Bjorn Meyer(b)
カスパー・ラスト:Kaspar Rast(ds)
アンディ・プパート:Andi Pupato(per)
2007年7月フランス録音