エンジョイ/トラヴィス・サリヴァンズ・ビヨーケストラ
エンジョイ/トラヴィス・サリヴァンズ・ビヨーケストラ
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最北の歌姫とジャズ・ビッグ・バンドの融合
Enjoy! / Travis Sullivan’s Bjorkestra

 世界最北の島国アイスランドが生んだ世界的歌姫のビヨークとジャズ・ビッグ・バンド。一見まったく接点が感じられない両者を融合させた総勢18名のバンドがビヨーケストラだ。リーダーのトラヴィス・サリヴァンは90年代末からビヨークに興味を持ち始め、ジャズ化を試みていた。ビヨークの楽曲はメロディックで、多くの異なるジャンルの様式が含まれており、ジャズに適した素材だと考えていたという。

 これが北欧から生まれたオーケストラということなら話はわかりやすいが、ニューヨーク・ダウンタウン系のミュージシャンによって組織されたのは、やはり意外と言うしかない。2004年結成のビヨーケストラはカート・ローゼンウィンケル、ベン・モンダーらをゲストに迎えたライヴ活動を通じ、アメリカではすでに多くのファンを獲得している。

 このデビュー作は独特の音楽世界を持つビヨークのナンバーが、予想以上に大編成ジャズ・サウンドとして立派に再構築されていることに驚かされる。その自然な流れはサリヴァンの編曲手腕の賜物であり、フュージョン系鍵盤奏者/企画作のオーガナイザーとしても活躍するジェイソン・マイルスがプロデュ-サーを務めていることも関係しているのだろう。

 電気楽器や人力ドラムンベースを盛り込んだ音作りで、現代性も表出。ビヨークを想起させるベッカ・スティーヴンスのヴォーカルは、本プロジェクトのアイコンとしてジャンルを超えた音楽ファンに対する呼び水となるはずだ。2月のビヨーク来日公演の話題が冷め止まぬこのタイミング。金管楽器やビッグ・バンドのファンはもちろん、ポップス~ロック・ファンにもぜひ聴いてほしい作品である。

【収録曲一覧】
1.Hyperballad
2.Alarm Call
3.Human Behavior
4.Show Me Forgiveness
5.Army Of Me
6.Hunter
7.Who Is It
8.Cocoon
9.Enjoy
10.Overture To “Dancer In The Dark”

トラヴィス・サリヴァン:Travis Sullivan(as,cl) (allmusic.comへリンクします)
ベッカ・スティーヴンス:Becca Stevens(vo)

2006年8月録音