林:そうなんですか。だけどコスト、コストって言われると、イヤな気持ちがしませんか。
隈:でも、今の時代、そのハードルを越えないと建築って絶対建たないわけ。どんなにカッコいい、美しいと言っても、コストが高かったらその建築は実現させられない。
林:何年か前、青山のベルコモンズがなくなったじゃないですか。あれは名建築というか……。
隈:黒川紀章さんの建築ね。あれはおもしろかった。
林:都市の中に丘をつくるというコンセプトで、あれがなくなったのはショックでした。いくら黒川さんが残したものといっても、時代にそぐわなきゃガンガンこわしていくんですよね。私は四角っぽいビルばっかりがあふれても、つまんないような気がするんです。
隈:そこが建築家として知恵をしぼらなきゃいけないところだね。そして最初から形だけを考えるんじゃなくて、つくり方を考えながらやっていく時代になってきてる。
林:それは隈さんが昔から考えていたことですか。
隈:僕らのときは、磯崎新さんとか黒川さんとかのスターアーキテクトが出てきた時代だけど、僕がついた先生の一人に、内田祥哉先生という人がいてね。内田先生は、つくり方にものすごくこだわった人で。「日本の大工を復権しなきゃいけない」ということを70年代から言い始めてたの。その内田先生が、日本の大工がどうやって同じような寸法の木材を使いながら豊かな空間をつくってきたかを教えてくれたわけ。
林:隈さんは「日本の大工の技術を世界中に持っていくことが夢です」とおっしゃってますね。
隈:それは内田先生の影響なんだよね。大工の切り方とか材料の使い方とかを研究して、それが世界の中でも飛び抜けた技術だということを教えてくれた。
林:しかし64年にお父さんと一緒に代々木体育館を見て「すごいな」と思った少年が、55年後に国立競技場の設計に関わったんだから、すごい話ですよね。
隈:それは林さんも同じだと思うんだけど、僕らの世代って64年の盛り上がりも知ってるし、そのあとの70年代の公害問題、環境問題も知ってて、そこで育てられ、鍛えられたところがあるじゃない。日本の両極を見られたラッキーな世代だと思う。