TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、世界的ロックバンドU2について。
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アイルランドのロックグループ、U2のヨシュア・トゥリー・ツアーはヨーロッパ、南北アメリカ、ニュージーランド、アジアで300万人を動員する空前のライブツアーとなった。
彼らは、今、そこにある危機について鋭いメッセージを投げかける楽曲を発表し続け、グラミー賞獲得22回という金字塔を打ち立てているモンスターバンドである。
日本公演は昨年12月にさいたまスーパーアリーナで開催されたが、そこではアメリカの対中米政策を批判する曲(“Bullet the Blue Sky”)で、分断される世界の危機を訴えた。
スクリーンにはグレタ・トゥーンベリ、プッシー・ライオットなど様々な形で社会運動に関わった女性たちに加えて、オノ・ヨーコ、緒方貞子といった日本人女性のポートレートを映し出した。
また、アフガニスタンで武装勢力に銃撃され命を落とした医師、中村哲さんを哀悼、スマホのスイッチをオンにして灯りを灯そうと聴衆に呼びかけ、さいたまスーパーアリーナがあたかも大聖堂で行われる荘厳なミサのようになった。
全世界2500万枚を売り上げたアルバム“ヨシュア・トゥリー”だが、タイトルにある“ヨシュア・トゥリー”とはアメリカ南西部の砂漠に生息する樹木、ユッカを指している。
87年、このアルバムのプロモーションで来日した彼らにインタビューしたことがある。
入社5年目の僕は京王プラザホテルの一室でマイクを向けたが、自分たちに喋らせるよりはアルバムをしっかり聴いてくれと言わんばかりに言葉少なだった。
ブライアン・イーノをプロデューサーに、剛毅でストレートな主張を深いサウンドでくるんだアルバムは、社会への苛立ち、不正に立ち向かう勇気が込められた作品だった。取材が終わり、写真撮影の段で、ボノが「撮るなら顔の左の頬だけだ」とカメラのレンズに対して横を向き、高層ホテルの窓から新宿の夕暮れを眺めていた。