カンボジアの日本語学校で学んだのだそうだ。脚本家の小山内美江子さんの「JHP・学校をつくる会」には私もときどき協力させてもらっており、つい話がはずんだ。よほどきちんと日本語を習得した先生が指導したのだろう。きちんとした日本語を話す人が育っていることが嬉しい。
彼も言う。こんなにお客が少ないことは日本に来て初めてだと。お客が多ければ仕事も励みになるが、これでは気が抜ける。そう言いながら、最後に「これは春節のデザートです。店からのサービスです」。誰もいない春節の日に立ち寄ったことがよほど嬉しかったのだろう。
店を出て中華街をぶらつく。いつもは、肩が触れ合わねば歩けないのに、あんまんを売る店には一人も並ばず、北京ダックが所在なげにぶら下がっている。
いつまでこの状態が続くのか。船にいる人々にも情報が届かず、いたずらに不安だけが跋扈する。ふと、ガルシア・マルケスの『コレラの時代の愛』を思い出した。
※週刊朝日 2020年2月28日号