風邪をひいたら病院で抗生物質をもらう? それは今すぐやめていただきたい。そもそも風邪も新型コロナウイルス肺炎もウイルスによるもので、菌をやっつける抗生物質では治せない。むしろ意味なく使うことで菌が耐性を持ってしまい、本来効くはずの病気に効かなくなる恐れが出てくるのだ。
「今、話題になっている新型コロナウイルスですが、あれには抗生物質は効きません」
2月上旬、東京・日本科学未来館で開かれたイベントで、国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)の具芳明医師がこう話すと、その場にいた聴衆は一瞬、ざわついた。
その数日後、具医師の言葉を裏付ける不幸なことが起きた。
13日、新型コロナウイルスに感染した神奈川の80代の女性が死亡した(感染判明は死亡後)。当初、肺炎と診断され、医療機関で抗生剤(抗生物質)による治療が続いていたが症状は改善しなかった。現在のところ死因は不明だが、原因が新型コロナウイルスであれば抗生物質は効かない。それは、コロナが「ウイルス」だからだ。
抗生物質は、医療機関でよく処方される代表的な薬だ。私たちが日ごろかかる病気の中には、細菌の感染がきっかけで起こるものが少なくない。
高齢者では命にかかわることもある肺炎や、小さな子供がよくかかる中耳炎、女性では膀胱(ぼうこう)炎などだ。
抗生物質は、そうした感染症を引き起こす菌の増殖を抑えたり、殺したりする作用がある。
冒頭のイベントは、この抗生物質が効かない菌(薬剤耐性菌)が存在するということを、一般の人にも広く知ってもらおうと企画された。菌が耐性を持つと、それまで抗生物質で治療できていた病気に対して薬が効かなくなり、最悪のケースでは命を落とすことにもつながる。
それを裏付ける驚くべき数字がある。国内の薬剤耐性菌について調べている「AMR臨床リファレンスセンター」が報告したもので、耐性を持った黄色ブドウ球菌と大腸菌が引き起こした病気で死亡した人が、年間計8千人以上いることが明らかになったのだ。