
本年度ニュー・スター賞の最有力候補は少女の面影
Esperanza / Esperanza Spalding
まだ少女の面影を残す23歳のベーシスト、エスペランサ・スポルディング。ここ数年で音楽キャリアを急速に発展させている才媛である。米ポートランドで生まれ、スペイン語と英語のバイリンガルの環境で育ち、幼少からヴァイオリンを演奏。15歳でベースを手にして以来、クラシック主体だった音楽世界が一気に広がり、バークリー音楽大学に進学。20歳の時には史上最年少で同大の教壇に立っていたというから驚く(現在もベース学科教員)。2006年リリ-スの初リーダー作『Junjo』(Ayva Music)では、エグベルト・ジスモンチ曲≪ロロ≫をカヴァーしていたこともあって、個人的な注目度が高まっていた。本作はジョー・ロヴァーノ、スタンリー・クラーク、パティ・オースティンらとの共演を通じてスキルを高めたエスペランサの、リーダー第2作にしてメジャー・レーベルHeads Up移籍第1弾だ。
近年ようやくプロの女性ウッド・ベーシストが増えてきてはいるが、ヴォーカル&ベーシストとなるとそう多くはいない。それだけでエスペランサが個性派と言えるわけであり、今作ではその個性にさらなる磨きをかけている。前作がスキャット主体の一人二役だったのに対して、今回は1曲を除く全曲に歌詞のあるヴォーカルをフィーチャー。情報なしにアルバムを聴いたら、誰もが女性ヴォーカリストの作品だと思うに違いない仕上がりだ。とは言っても活況を呈する若手女性ジャズ・ヴォーカル・シーンの新星、という位置付けは彼女にそぐわない。ブルース、ファンク、ブラジル音楽等を吸収し、2ヶ国語の歌唱を聴かせるエスペランサの音楽性は、ジャンルを越境するスタンスで活躍する若き才人の1人と見做すことによって、よりその魅力を実感することができるだろう。ヴォーカルとソングライターのスキルをさらにアップしているのが頼もしい。本年度ニュー・スター賞の最有力候補と言おう。
【収録曲一覧】
1. Ponta De Areia
2. I Know You Know
3. Fall In
4. I Adore You
5. Cuerpo Y Alma
6. She Got To You
7. Precious
8. Mela
9. Love In Time
10. Espera
11. If That’s True
12. Samba Em Preludio
エスペランサ・スポルディング:Esperanza Spalding(b,vo) (allmusic.comへリンクします)
レオ・ジノヴェーゼ:Leo Genovese(p)
オーティス・ブラウン:Otis Brown(ds)
ドナルド・ハリソン:Donald Harrison(as)
オラシオ・エルナンデス: Horacio Hernandez(ds)
2008年作品