下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数
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※写真はイメージです (Getty Images)
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 人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は「豪栄道のやせ我慢」。

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 久しぶりにすっきりした顔をしていた。引退会見での吹っ切れたようなすがすがしさ。どんなに内心悩んだことだろう。何にもいわないから伝わって来なかっただけだ。

 大相撲の豪栄道が引退した。私はずっと豪栄道のファンだった。きっかけは何だったか忘れたが、まず名前が好きだった。豪栄道豪太郎、この上なく強そうな名前ではないか。

 それなのに、まわりから優勝や大関さらに横綱を期待されるとポロポロ負けた。その負けっぷりが面白いのだ。解説の北の富士さんや舞の海さんは、初日は毎場所と言っていいほど優勝候補に豪栄道の名を挙げた。

 稽古ではいつでも圧倒的に強いのだという。せっかく期待されて大関になったのに、カド番をようやくしのいで、次につなぐということが何回あったか。北の富士さんもあきれ顔だった。それなのにカド番から全勝優勝をさっそうとやって見せてくれる。その不安定さが好きだ。よくも悪くも期待を裏切ってくれる。

 彼の一番だけはテレビの前で応援するのだが、そんな時は必ず負ける。

 全勝優勝の時は、私が海外に出かけている最中だったので、私が見ていない方が勝つのだとゲンをかついで、それから彼の出番だけはわざと席を外して見ないようにした。ファン気質とはそんなものだ。

 豪栄道は時々困ったような表情を見せる。自信に満ち溢れているというよりは、心の迷いがふと表情に出る。何ともいえぬ人間としての可愛らしさを感じてしまう。

 私は父が好きだったせいで、子供の頃から大相撲に親しんでいた。大阪に父が転勤した時、桟敷席に連れてゆかれて、遠くから横綱照国を見た。そのピンク色の肌の美しかったこと!

 長じてNHK時代には、栃錦のファンだった。あの速攻と知能派相撲。栃若戦でもだんぜん栃錦だった。

 入局してすぐ名古屋に転勤し、名古屋場所の金山体育館では、女子としてはじめて力士にインタビューすることもできた。

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