金山体育館に冷房はなく、酷暑の夏場所では氷柱を立てて、酸素ボンベから酸素を噴出させて涼をとった。体育館入口の巨大な氷柱の側で、大きな力士に小さな私がインタビューする。解説は神風さん、実況中継は志村正順、野瀬四郎という大レジェンドの時代。場所がはねると、クラブへお供することもよくあった。
相撲の面白さは、一対一で、土俵という限られた空間で瞬時に全ての力と技が衝突するところにある。仕切りの表情で勝負が予想できる。勝つ時は大きく見え、負ける時は小さく見える。
予想をいつも裏切るのが豪栄道。大けがをしていても、体には何も貼っていないからわからない。ちょっとつまらなそうな顔をして土俵に上がる。
彼自身は自分のことを「やせ我慢」と呼んでいた。思いと裏腹に、矛盾しているところに魅力を感じる。
今回負け越したら引退と決めていたという潔さは、場所前から見えていた。今後は安心して親方としての姿が見られる。
※週刊朝日 2020年2月21日号