米国はイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官をドローン攻撃で殺害。イラン側はその報復措置として、米軍が駐留するイラクの基地に十数発の弾道ミサイルを撃ち込んだ。攻撃後、イランのザリフ外相は「均衡の取れた自衛措置は完了した」と語っている。米国もイランの軍事関連施設など52カ所を攻撃すると予告していたが、再報復は封印した。確かに、米国とイランともに緊張状態をこれ以上エスカレートしたくないというのが本音だろう。しかし、根本的な対立構造が解消されたわけではなく、本当にこのまま収束するかどうかは別問題だ。
軍事評論家の前田哲男氏が指摘する。
「戦争の火種は依然、くすぶったままです。イランの息のかかったイラク、レバノンなどのシーア派武装組織が、米国とその同盟国を標的に攻撃を仕掛けてくる可能性もあります。海自の活動海域に近いイエメンでは反政府組織フーシが昨年9月、サウジアラビアの石油施設をミサイル攻撃しています。安閑と紛争に巻き込まれる恐れはない、などと言えるような状況にはありません」
バーレーンに司令部を置く米軍の第5艦隊司令官は、連合海上部隊(CMF)の司令官を兼務している。CMFの傘下には第151連合任務部隊(CTF151)が設立され、日本の海自はそのもとでソマリア沖の海賊対処に当たってきた。米国主導の海洋安全保障イニシアチブ(有志連合)への参加は見送ったが、事実上、米軍の傘下にあるも同然なのだ。政府は現地を“紛争地”とは決して認めようとしないが、米中央海軍と海賊対処部隊の活動はリンクしている。前田氏が説明する。
「米軍の観点からすると、海自が活動するアラビア海北部を含めて、ホルムズ海峡、ペルシャ湾まで戦闘区域・海域と見ているはずです。すでに任務を開始した海自のP3C哨戒機部隊の情報は、そのまま第5艦隊司令部の情報として処理されることはまちがいありません。海自の情報収集活動がリアルタイムで米軍に共有化されることを、イラン側はどう見るか。敵対行為と見なされれば、いくら日本がイランとの間に伝統的な友好関係があると言っても、許容しない可能性があります」